07

悟と傑が任務に行ってから数日と経ったある日私は担任から起きた自体を電話越しに聞かされる。


“夏油 傑が呪詛師に堕ちた"


なんなのその冗談。一瞬にして背筋が凍る。
それよりもなんなのだこの馬鹿げた話は。まるで頭を鈍器で叩かれたように会話が入ってこない。


電話越しに聞こえる会話に返事も出来るわけなく私はただ立ち尽くしてしまう。
傑が集落の人間を皆殺しにした?これはきっと何かの夢だ、違いない。その後行方を晦ましたと言う傑は今どこにいるの?どうして。頭の中にぐるぐると考えが巡る。



「…っ」



むしゃくしゃしながらも携帯の通話ボタンを切る。傑がなんの考えもなくこんな事をするはずがない。なんでもっと早くに気づいてあげれなかったんだろう。街中でただひたすら呆然とする私は宛もなく足を運ばせる。





「や。」
「すぐ、る」
「何辛気臭い顔してるんだ?」
「っ、傑」
「おっと、危ないじゃないか」



姿を見せた傑に咄嗟に飛びつく。よたっとふらつく傑だったがすぐに体制を整えて私を抱きとめてくれる。




「はは、熱い抱擁だね」
「…馬鹿じゃないの。傑、何かの悪い冗談だよね」
「…残念ながら本当だよ」



ああ、本当なんだ。傑の目は真っ直ぐで私も胸が苦しくなる。


「……術師だけの世界を作るんだ。
なまえ。君も一緒に来て欲しい」
「なに、それ、」




「なまえは俺の手を取ってくれるだろ」





思わず私は身を引いてしまう。傑から距離が離れると傑は静かに私に手を伸ばす。不敵な笑みを浮かべ私を見つめる。





「なまえ。君が好きだ」



「………うそ」
「悪いけど私は本気だよ」




じりじりと私が距離を取った差を詰めてくる傑。すぐに私にたどり着くと頬に優しく手を添えられる。




「なまえ」
「っ、傑」



それはあまりにも優しくて残酷で。傑はさっきの返事を求めるように私の前に手を伸ばしてくる。
答えなんかとっくに決まっているのに躊躇してしまう。ここで別れたら彼はこれからどんどん犯罪に手を染めてってしまう。だけど今の私が言って止まる傑ではない。これでもかと傑は「なまえ」と優しく呼ぶ。






「……傑。私は行けない」





「…そうか。
迷うものなら無理にでも連れていこうかと思ったよ」


「…傑は私の気持ちを尊重してくれるもんね」
「私を過大評価しすぎだよ」
「そんなことない。傑はいつも私を助けてくれてるよ」
「…なまえには敵わないな」
「悟には話せた?」
「あぁ。さっき振りにな」




「…今ここで私が傑を止めても無駄かな」




そう言うと傑は表情も変えず私を見据える。





「……したければしたらいいさ。それには意味がある」
「……」
「っふ、悟にも似たようなことを言ったな。動かないなら私は行くよ」




またいつもと変わらないように傑は私の頭を撫でる。こんなの卑怯だ。ほんの少しだけ撫でると傑はすぐに私の前から立ち去る。追いかけられるわけもなくその場に立ち尽くす。
後ろを振り向くとそこにはもう傑は居なくて。ただ、虚しさだけがそこに残った。


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