揺れる



「さて、なまえちゃん行きましょうか」
「は、はい…本当に私いってもいいんでしょうか…?」











不安になり確認を取るともちろんよと既に連れていくことも伝えてあると先輩の声が。飲み会の場はあまり得意ではない。が、私も社会人だ どうこう言ってはいけない。

会場についた私は先輩の後をついて行き今日の飲み会の場へと入ってゆく。そこにはオールマイトが引退後 No.1ヒーローのエンデヴァーさんがいた。
一体何事だ。どこのヒーロー事務所なのか聞かされていなかった私は心の中で驚き混乱する。その最中にも社長や上司の皆様はご挨拶をし私もそれに続き挨拶をする。
場違いなのではと固まっている私に先輩はフォローをしてくれる。
少しずつ参加者が集まってきたみたいだ。








「あら、今日はショートさんは?」
「…申し訳ない、見回り時に問題が起きたらしく少し遅れるそうです」











上司とエンデヴァーさんとの会話がふと聞こえる。
?ショートさん?妙に聞き覚えのある名前に聞き間違えなのかと耳を疑う。
周りの話し声や飲み会の場で緊張をしているとそれぞれ席につき始め今日の飲み会の挨拶から始まる。その間にも頭の中でぐるぐる考えが巡ってしまう。いけない、今は切り替えようと思い前を向くといつの間にか終わっていた挨拶と乾杯を迎える声が聞こえ急いで器を持ち「かんぱーい」と祝う。
先輩にもお酌をしてふとエンデヴァーさんの方を見ると色んな方々から囲まれているやっぱりすごい人なんだなと改めて実感をする。私も皆様にと思い役職順にお酌に行く。大人数だけあって賑やかで今回の成功が皆さん嬉しいのがとても伝わる1面だ。エンデヴァーさんは囲まれていてあまり長いことお話は出来なかったがお酌をするとなぜか観察をされてような気がした。気の所為だと思うけども。
やっとの思いで自分の席につき運ばれてきた料理を食べていると一人の男性に声をかけられる。







「あ、あの」
「?はい」
「開発部の柏木です。いつもお世話になっています」
「こちらこそお世話になっております」







ぺこりとお辞儀をするとビールを注がれる。あまり得意ではないがごくりと飲み干す。柏木さんにもビールを注ぎ今回の搭載システム対敵探知機及び最新受信発信端末の導入プロダクションの成功の話や裏話などをして話が盛り上がってゆく。







「みょうじさん大丈夫ですか?」
「…大丈夫です」










得意でないはずなのに1杯飲んだが故に次第に代償が出てくる。酔いが回ってきたかな…。
一言柏木さんに断りを入れて1度水を飲んでこようと立ち上がろうとした瞬間だった。










「……なまえ?」
「え?」












振り向くと何故かそこに轟さんの姿が。
え、なんで?と困惑するが轟さんは私と目を合わせてくれない。それが私には苦しかった。











「ショートおおお!!!」
「……うるせぇ」
「来たか!!こっちに来い!」











エンデヴァーさんが呼ぶショートと言うのは轟さんのことだったらしい。
聞くとエンデヴァーさんの息子が轟さんということでそこまでの関係を知らなかった私はようやく話の合点がいった。
そうゆうことかと納得をしていると今度は轟さんが皆に囲まれる。
今の彼はプロヒーローのショートさんだ。私も私情を持ち込むのは辞めよう。
とりあえずお水をとお水をもらい飲み干す。









「…なまえちゃん」
「あ、先輩。すごいですね」
「そりゃあね。とゆーか、少し顔赤いわね。御手洗ついでに少し落ち着かせてきなさい」









さすがに先輩には見られているか。お言葉に甘えて頭を下げてから廊下へと出る。温度が違く少し冷たい空気が気持ちいい。すぐ近くにあった椅子へと腰掛ける。
…轟さん目を合わせてくれなかったなあ。
先程のことを思い出すが仕方ないよねと自分を慰める。ふと会場の扉を見ていると空いて誰かが出てくる。その姿は。








「と、轟さん?」










私の声に気づいた轟さんが駆け寄ってくる。
私は本当に酔っているのだろうか。あんなに囲まられていたはずの人がここにいるわけがないと目を疑う。









「…なまえ」










私の名前を呼ぶ轟さんの声だ。
本物なんだろうか。











「轟さ、ん」
「…悪い。今日素っ気なくしちまって」
「へ、そ、そんな」
「まさか今日の飲み会になまえがいると思わなかった」
「…私もですよ、だから私今酔ってるのかと自分を疑ってて」








そう言うと轟さんは笑う。ふわふわとした感覚が現実なのか分からなくなる。










「……さっき」
「?はい」
「喋ってたろ。知り合いか?」
「あ、ああ。柏木さんですか?
今回のプロダクションのことで話が盛り上がっちゃってて…普段は違う部署なんですけどね」











話しているうちに轟さんの顔が険しくなった気がした。
昨日ぶりだと言うのに轟さんとは長く会えていなかった気分だ。このまま会えなかったらどうしようと思っていた昼間の自分に聞かせてやりたい。










「…轟さん?どうしました?」
「いや、なんでもねぇ。というか顔赤いな、大丈夫か?」









気づくと私の頬に轟さんの手がある。
心配をした轟さんの手が私の頬を撫でる。あ、気持ちいい。右手で撫でるその手を思わず自分の手で重ねて覆う。








「ふふ、轟さんの手冷たくてきもちい」
「っ…」








轟さんの顔が赤くなった。轟さんも酔ってきたのかな?
心配になり轟さんと同じ目線になろうと立ち上がる。










「轟さん?轟さんも赤い…」
「っ、な、なんでもねぇ」
「そう、なんですか?」






轟さんと目が合う。どきどきしてしまうのはお酒のせいなんだろうか。昨日のことがまたふと頭をよぎる。
やっぱりこのまま変な雰囲気は嫌だな。








「轟さん」
「なんだ」
「また、ご飯食べに来てくれますか?」
「…あぁ」
「ふふ、よかった」










上手く笑えて居たのかはわからない。
でも言えてよかった。また会えるんだと思うと嬉しい。









「私轟さんに嫌われたかと思ってました」
「!んなわけねーだろ」


「よかった…」
「…俺の方こそ嫌われたかと思っていた」

「嫌いになんてなってません!
それにこれで会えなくなったりしちゃうのかなって思ったら寂しかったんです」







素直な気持ちがぽろりと出る。
そんな私を見て馬鹿だなと轟さんは優しい表情で言う。










「なまえは可愛いな」
「へ」




「…可愛いよ」









何かを愛おしそうに笑う轟さんの初めてみる顔に心臓がきゅっとする。
顔が赤くなってるのが自分でもわかるくらいに熱い。今日の轟さんはまた心臓に悪い。そんな私を心配して轟さんは暫く右手を私に貸してくれた。
このふわふわとした感情に名前を付けるとしたらなんて言うのだろうか。今は分からなくても轟さんとまた一緒に居れるのだという返事が嬉しいということだけで充分だ。
どうかこのどきどきが轟さんに伝わりませんように。















《揺れる》





「ショートおおお!!!まだか!!」

「……悪い、戻る」
「あ、はい!ありがとうございます轟さん」
「……帰り待ってろ。送ってく」