一條くんの本性 06
言い返せなかった。
確かに、俺の左手はずっと空いたままだったからだ。
それに、俺を押さえ付ける力も強いとは言えない。逃げるなら逃げられたはずなのに…
俺は逃げられなかった。いや、逃げなかった。…本気で嫌がってはいないからだ。

「ねぇ、もしかしてちょっと期待してたんじゃないの?
攻めようと思っていた僕に攻められて、こっちも悪くないって思ったんじゃない?」
「っ…!」

そのとおりだ。
俺はずっと蒼生を攻めようと思っていた。
けど、実際は蒼生に攻められている。
この現実を受け止めたくない想いと共に、攻められて本気で嫌じゃないことに気がついてしまっていた。…こんな蒼生でも好きだと思ってしまった。

「認めなよ。
たっぷり可愛がってあげるから。」

耳元で囁かれる声はまるで悪魔の囁きだ。
全てを委ねてしまいたくなる。

「僕が好きなんでしょ?
だったら、僕に身を委ねなよ。」
「っ…」
「…ね?」

甘く、脳内に響き渡る声。
蒼生のもう片方の手は服の中に入れられ、腹筋をなぞっている。

…俺は…

コクリ、と頷いた。

「ふふ、いい子。
これから僕好みに躾けてあげるね?
やってみたかったこと、いっぱいあるんだ」

愉しそうに笑う蒼生を俺はただぼーっと眺めることしかできなかった。

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