一條くんの本性 06
言い返せなかった。
確かに、俺の左手はずっと空いたままだったからだ。
それに、俺を押さえ付ける力も強いとは言えない。逃げるなら逃げられたはずなのに…
俺は逃げられなかった。いや、逃げなかった。…本気で嫌がってはいないからだ。
「ねぇ、もしかしてちょっと期待してたんじゃないの?
攻めようと思っていた僕に攻められて、こっちも悪くないって思ったんじゃない?」
「っ…!」
そのとおりだ。
俺はずっと蒼生を攻めようと思っていた。
けど、実際は蒼生に攻められている。
この現実を受け止めたくない想いと共に、攻められて本気で嫌じゃないことに気がついてしまっていた。…こんな蒼生でも好きだと思ってしまった。
「認めなよ。
たっぷり可愛がってあげるから。」
耳元で囁かれる声はまるで悪魔の囁きだ。
全てを委ねてしまいたくなる。
「僕が好きなんでしょ?
だったら、僕に身を委ねなよ。」
「っ…」
「…ね?」
甘く、脳内に響き渡る声。
蒼生のもう片方の手は服の中に入れられ、腹筋をなぞっている。
…俺は…
コクリ、と頷いた。
「ふふ、いい子。
これから僕好みに躾けてあげるね?
やってみたかったこと、いっぱいあるんだ」
愉しそうに笑う蒼生を俺はただぼーっと眺めることしかできなかった。
8/13
しおりを挟む
ミドル・シフォン