第17話 重なる

「では、今から手術を始めるアル。心配ないネ。私、失敗しないアル」
「神楽ちゃん、それどっかで聞いたことあるセリフだよね」


神楽ちゃんはクリーム色の手袋をはめて、両手を顔の前にかかげてる。
ドラマでありがちな手術前の様子を見事に再現。
私もそれにノッてベットに横たわれば、壁に寄りかかる銀時さんが、お前まで…と言いたげな呆れ顔でこちらを見ていた。



「神楽ちゃんそれっぽい! 」
「1回やってみたかったネ」



あはは、うふふと笑い合っていれば、ドアから慌てて飛び込んできたのは新井先生。手には色々と資料をかかえて忙しそう。

これからだ、という時に先生が帰ってきてしまい、神楽ちゃんは不服そうに口を尖らせている。



「お客さんが来てしまって、遅れてすみません。ではなまえさん、検査始めますね」
「じゃあ、なまえ。俺ら外にいるからな」


銀時さんは神楽ちゃんの首根っこを猫のように掴み上げると、私に気を遣ったのか診察室の外へ。



「検査なんて言って、なまえにアンナコトやコンナコトをするアルか! 」
「神楽ちゃん、怪我した足の検査だよ」
「お前はドラマの見過ぎなんだよ。そんな事あるわけ___」
「あはは。神楽ちゃんの想像にお任せします」




否定とも肯定ともとれない先生の態度に、半開きのドアを破壊しそうな神楽ちゃんと、なぜかピタリと動きが止まる銀時さん。



「いや、新井先生も笑ってないで、ちゃんと否定して下さい! 」



新八くんが口にした言葉に、同意見だ! と首を高速で縦に振る。
それを見て新井先生は冗談です、と先ほどと変わらない笑顔で補足。


去っていく3人を見送り、ベットに座り直す。
怪我をした右足を台の上に乗せた時、視線を感じた。



「なまえ、なな、なんかあったら呼べよ……? 」
「なんでアンタまで心配してんだァァ! さっきまで銀さん余裕そうにしてたでしょ! 」


ドアから焦り顔で覗く銀時さんに新八くんの鉄拳がくだり、引きずられるように、部屋を後にした。



「なまえさんは万事屋さんたちに愛されてますね」



その光景を見ていた先生が、私に笑いかけた。
つられるように微笑み、口を開く。



「先生だって、そうですよ」



先生の手がピタリと止まり、不思議そうに私を見つめる。


ひのやに来るお客さんや、さくら屋の姉様たちを思い出す。
新井先生のことを、良く診てくれる、良い薬をくれたと絶賛する人ばかりだ。

先生に伝えれば、眉毛をハの字にして褒められて反応に困るといった顔をした。



「当たり前のことをしてるだけですよ。
……うん、足も大丈夫そうです。この分なら傷跡も残らないでしょう」
「ありがとうございます」



子供の頭を撫でるみたいに優しげに手が伸びてくる。
その仕草に、私は父親の姿を重ねてしまった。



「あ、すみません。なまえさんはこんな事する歳ではないですよね。子どもたちもここに来るものですから癖で」
「いえ、なんだか……父親を思い出しました」
「それは、医者だと言っていた、お父上ですか? 」



私は吉原に来る前、小さな村にいた。父はそこで医者をしていた。
私が怪我をして父が治療をした後、こうして頭を撫でてくれたのをよく覚えている。
それが新井先生のと重なったのだ。




「少し聞きました。確か、ある戦いに巻き込まれたと」
「はい。実は私その時のことはよく覚えてなくて……でも、最期は誰かを庇ったと聞きました」
「辛かったですね……」
「でも医者の父らしいです。そんな父を私は心から尊敬してます」



新井先生は最後にもう一度頭を撫でてくれた。
私の思い出話を聞いてくれた先生にお礼を告げ、診察室を出る。



出入り口に向かえば3人の後ろ姿が見える。銀時さんが気づいてくれて、手をあげて迎えてくれた。
神楽ちゃんもやっと終わったという顔をして太陽を避けるように、大きな傘を開いた。


今日の目当ては、最近吉原に新しく開店した団子屋。
私が以前その話を3人にすると、一緒に行こうと誘ってくれた。
なので今日は少し、おめかししている。



「あ、なまえさん、その簪お似合いですよ」
「ほんと? ありがとう、新八くん」



いつもは身につけない簪に気づいてくれた新八くんにお礼を告げ、4人で目的地に向かって歩き出す。
斜め上から視線を感じたので見上げれば、難しい顔をした銀時さんと目が合う。


「すげェ似合って、」
「なまえ! 早く行くアル! 」



ゆっくり歩いてたのが焦ったくなったらしい神楽ちゃんが突然私の手を引く。
何か言いかけた銀時さんも、なぜか慰めよるに寄り添う新八くんも置いてきぼりにして、団子屋に向かって走り出した。






______






たどり着いた団子屋に仲良く4人並んで座る。
道ゆく人を眺めながら、3色彩り鮮やかな団子を食べれば甘い味が口に広がる。



「美味い」
「本当ですね。美味しい」



食べ終えた串を咥えて、もて遊ぶ銀時さんに同調すれば、フッと笑みを浮かべてる。
表情の意味が分からずフリーズしていれば彼の指が伸びてきて、口元をぬぐった。目線を追えば指先にあんこが。



「うめェ」



銀時さんはそれをそのまま舐めとる。
妙に艶っぽくて、みてはいけない気持ちになり、急いで目線を逸らした。


小さくお礼を言えば横でおかわり! と元気な神楽ちゃんの声。
銀時さんの代わりに財布の中身をみる新八くんを観察すれば、ダメと首を横にふるのだった。



「お金なら私が」
「ダメだ、なまえ。甘やかすな。
今日の全財産、アイツの胃袋を満たすだけで消えるぞ」



今日一真剣な顔で銀時さんに言われてしまい、それ以上突っ込むのをやめる。
代わり、私の頼んだお団子を1本神楽ちゃんにあげると、飛び上がって彼女は喜んだ。




「ありがとうございました〜」



店員さんに見送られ、団子屋を後にする。
楽しい時間はあっという間に終わってしまうもので、気づけば万事屋3人は帰宅の時間。大門まで見送ろうと3人に着いていく。



銀時さんに見送りはいいと言われたが、今日は私に付き合ってくれたので、と頑固に拒否をすれば諦めたようだ。



「なんかあったら、呼べよ」



銀時さんに何度も言われ、その度に分かりました、と同じ返事をする。中々の心配性のようだ。


地上に消えく3人を手を振って見送れば、少しの寂しさが襲う。



大門から街を見渡す。大通りはお店の灯りでキラキラと輝き、その反対に裏道は闇に包まれていた。

その闇をみていると突然、急いで帰らなきゃという気持ちに駆られる。
あの人の言葉が急に頭に浮かんだ。





__ アンタは1人で出歩かない方がいい





別に誰にも追われてないのに。足が自然と早くなる。
はたからみれば何かから逃げてるみたいだ。
すれ違う人がたまに訝しげな目で私を見る。



「とりあえず、落ち着こう」



邪魔にならないように道の端に寄り、壁に手をついて息を落ち着かせる。
もうすぐ歩けば私の家。いつも通りに帰ればいい。


小さく気合を入れ直して、歩みを進める。





「早速、約束を破ってるのかい? 」





どうしてこの人は、いつも私の意表を突いてくるのだろう。

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