煌びやかな夜の街。
鳳仙がいなくなったからといって、その姿は前とさほど変わらない。
まぁ、以前と比べて殺伐とした雰囲気は緩和され、歌舞伎町にも似た空気を感じるが。
そんな夜の街の人間を見下ろすように、団長はその場所に立っていた。
「……これで良かったのか、団長」
真っ直ぐ前を見て俺の問いに答える気はないようだ。
代わりにアホ毛が少し揺れた。動揺してるみたいに。
「話せば良かったんじゃねェか。
自分があの日、嬢ちゃんを助けたってよ」
そうすれば、嬢ちゃんが団長から離れることはなかったんじゃねェのか?
いや、決めるのは俺じゃない。どう思うのかは嬢ちゃんだ。
だが、今とは違う結末になったかもしれねェ。
そんな絵空事を並べていたら、団長が静かに口を開いた。
「……あの戦いでアイツは両親を失った。それに変わりはない。
遅かれ早かれ、アイツは俺から離れてたよ」
淡々と事実を述べる。
どこか、自分を嘲るかのように聞こえたのは気のせいか否か。
今さら何を言っても無駄だっていうのか?
……だったらなんで。
「始めから嬢ちゃんに近づかなければよかったじゃねェのかよ。団長」
ピクリとわずかに肩が動く。怒りスイッチに触れたかもしれないが、構わず俺は続けた。
「自分から近づいて、踏み込んで、傷つくのが怖くなったから、離れるのか?
勝手もいいトコだ」
挑発するように言葉を選ぶ。ゆっくりと団長が俺の方を振り向いた。
「……阿伏兎、随分と俺に言うようになったね。
生意気な部下をそばに置いたつもりはないんだケド」
「生意気な上司を持ってると、こうなるらしいぜ」
顔は笑ってるが、目は俺を捕らえて離さない。それは戦場にいる時と同じ顔だ。
……俺、今日が人生最期の日かも。
いや、こうなったらこのまま言っちまえ。
「団長」
自分でも気づいてない、心の奥底に俺は土足で踏み込む。
「……本当はホッとしてるんだろ?
嬢ちゃんが自分から離れた事に。
嬢ちゃんが自分のことを拒絶した事に」
団長は今でも後悔してる。
嬢ちゃんの両親を助けられなかった、
己の弱さを突きつけられた、あの日のことを。
団長がそれまで以上に戦場という場所を求めたのは、あの日を境にだった。
そして自ら誰かを助けたのも、あの少女以来、俺はみていない。
結果的に助けることはあっただろう。
それはあえて殺さなかったという意味で。
そこには理由があった。強さという理由が。
将来を期待できそうなガキや女、あの銀髪の侍のような存在。
いつまでも欲しいおもちゃを求め続けるような、頭のイカれた我が団長サマが。
自分の手が血塗られていると分かっていてもなお、助けたいと願った嬢ちゃんの存在。
団長、アンタは覚えてないだろうな。
口では家族は捨てたと言っていた幼い団長が、
第七師団に入りたての頃、家族の夢をみて真夜中に泣いていたのを。
そんな姿を見て、何も思わなかったと言えば嘘になる。
だから、嬢ちゃんの存在は貴重なんだ。
喧嘩しかしてこなかった団長が、ただの18歳の男に戻れる。
自分の中に芽生えた、純粋な感情。
こうでもしないと、この団長様はきっとこの先も、その気持ちを殺したままにするのだろう。
悪いな、団長。
「関わる事もなければ、
これ以上、嬢ちゃんに嫌われなくて済むもんな」
ゆっくりと三日月の瞳が開眼する。月明かりに照られされて、見慣れた青い瞳と目が合う。
「…っ」
初めてみたよ。アンタのそんな顔。
回りくどいのは性に合わないんだよ。
話し合いなんて俺たち第七師団に出来ると思うか?
口より先に手が出るような俺たちが。
「嬢ちゃんのことを護りたいって言ったのは、団長だろ」
なら、最後まで護り抜いて見せろ。
嫌われるのはそれからでも、遅くねェだろ?