20. お兄ちゃんとは no side



「あのお店から出てくるお姉ちゃんを、おじさんのところへ連れてきてくれるかい? 」


 建物の物陰、人から隠れるように男は少年に声をかける。少年と呼ぶにはまだ幼い。カケルは大きな瞳を揺らして、男をじっと見つめる。

 どういった意図で、そんな頼み事を自分にするのか? なんて事はどうでもよく、カケルはただ純粋に早く母親に会いたかった。



「おねえちゃんよんだら、ママに会える? 」



 繰り返された言葉に男は大きく頷く。母親に会えるならと言われた通り、店から出てくる少女に声をかけようと物陰からカケルが走り出した時だ。



「待ちなよ。少年」



 小さな体はいとも簡単に抱え上げられてしまった。カケルは予想外の出来事に目をパチパチさせ、自分を抱えている人物を不思議そうに見上げる。




「こんな状況でも泣かないなんて、将来が楽しみだね」
「な、なんだテメェは‼ 」
「通りすがりの海賊だよ」




 急に現れた青年に男は狼狽えた。しかしすぐ様、自分の計画を邪魔するなら斬るまでだ。
 そんな思考に至った男は迷いなく刀を抜く。が、すぐには動けなかった。
 彼の瞳は暗がりでもわかるくらい、殺気に満ち溢れ、冷たく男を射抜いていたから。


 カケルを地面に下ろし、刀を向けられてることなど、お構いなしに神威は少年に向き直る。分かりやすく言い聞かせるように少女…なまえのいる方向を指さした。




「あのお姉ちゃんに言えば、すぐお母さんに会わせてくれるよ」
「でも連れてきてっておじさんが……」
「連れてくる必要はない。さぁ、行っておいで」




 有無言わせない圧を笑顔で向けられ、カケルは不安げにチラチラと神威を見ながら歩き出す。
 じゃあね〜と半ば強制的に送り出し、彼は一息ついた。男もこのままではいられない。見ず知らずの青年に計画を崩され、怒りが込み上げる。



「この野郎、勝手なことしやがって! 」



 それは数秒の出来事。
 神威は今まさに襲いかかろうとした男の腕を蹴り上げ刀を奪い、両手を後ろで拘束する。
 うつ伏せに倒れた男に馬乗りになって、首元に刀を突きつけた。
 男は抵抗しようにも一連の動作が一瞬すぎて何も出来ない。




「アイツをどうするつもりだった? 」




 先ほど少年に向けた声とは真逆の、ゾッとするほど低い声。恐怖で答えられないのか、言いたくないのか、男は歯を震わせるだけ。
 神威はさらに喉に刀を食い込ませる。わずかに血が流れた時、男は命乞いをするように早口で口を開いた。



「頼まれたんだ、ある奴に。あの娘を連れてこいって! 」
「誰に」
「しらねぇ!」



 金で雇われた奴か……
 状況を瞬時に判断し、目の前のやつをどうするか神威は考えた。




「あと、知ってることは」
「ねぇよ! た、助けてくれ」




 汗を流し、手も震えている。本当に何も知らないのだろう。有力な情報を得られないことにイラついた。いつも通りの自分であれば、迷いなく男の息の根を止めていただろう。


 しかし、彼の頭に浮かんだのは、胸ぐらを掴まれ、自分を傷つけようとした相手にも関わらず、乱暴はやめてほしいと懇願してきたなまえの姿。


 そんな小さな記憶に、いつも通りの自分が支配されたことに驚く。




「……アイツに二度と近づくな」




 だが、何もしないわけじゃない。刀を足に向けると一気に斬りつける。男は突然の痛みに声すら上げられず、ただ地面に転がった。
 恐ろしいものを見る目つきで男は神威を見る。そこには、まるで傷をつけた相手を慰めるように微笑む神威の姿があった。



「安心しなよ。すぐ治るくらいの傷さ。まぁ、今は動けないだろうけど」



 足を傷つけたのは自分が去った後、逆上した男がなまえに近づかないようにするためだ。
 いや、その前に誰かに見つかり、通報されるだろう。
 刀を捨て、男を置き去りにして、近くの屋根に飛び乗る。探してる人物はすぐに見つかり、その場からじっと見守る。丁度、カケルと別れるところだった。



「すぐに会えるって言ったろ」



 少年には届いていないが、予想通りの展開につい言葉がもれる。



「あの侍……」



 なまえの横に視線を向ければ、見覚えある人物。鳳仙を倒した銀髪の侍だ。知り合いだったらしい。世間は狭いものだと思いながら、2人を眺める。


 屋根の上にいる自分に気づいてはくれないか、なんて子どもじみたことを考えていれば、ふいになまえがこちらを見た…のは勘違いで、雲の隙間から現れた月をみている。


 何を考えているのだろう
 しかし、銀髪の侍に声をかけられ、弾かれたように歩き出す。楽しそうに彼を見上げ、時々微笑んでいる。




「まぁ、今日はアンタに任せるよ。お侍サン」




 あの侍がいるから大丈夫だろうと思った訳ではない。2人の談笑してる姿をこれ以上見ていたくなかったのだ。背を向けてこの場を立ち去る。




「あれ」
「なまえ? 」
「今、誰かいたような……」




 やっぱり何でもないです、となまえが誤魔化すように笑えば、銀時もつられて微笑んだ。



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