3. 吉原の医者



 ひのやは人気の茶屋だ。老若男女問わずたくさんのお客さんが訪れる。




「こんにちは」
「あら、新井あらい先生。いらっしゃい」
「街を廻るがてら、少しこちらで休憩を」




 暖簾をくぐってきたのは、若い男性。彼は吉原唯一の医者である。吉原にきて日は浅いが、技術も高く、とても良い先生だと遊女たちの間でも評判が良い。



「日輪さん、体調はどうですか」



 晴太くんに注文しつつ、日輪さんの足に目を向ける新井先生。休憩がてらと言いながら、しっかりと仕事を真面目な人だなと感心してしまう。



「大丈夫ですよ先生。晴太が毎晩、足を揉んでくれて、とても助かってるんです」


 褒められて嬉し恥ずかしそうにする晴太くんの頭を先生は褒めるように優しく撫でる。



「なまえさんはどうですか。働き者なのは良いですけど、ちゃんと寝れてますか」

「はい、平気ですよ」



 新井先生にお茶を出すと、心配そうに見つめられた。どうやら目の下のくまを発見されたみたい。



「なまえ、今日もなのかい? 」
「ええ、今日はさらに人手が足りないらしくて」



 裏の仕事が回らないみたいです、と付け足す。
 昼はひのや、夜は "さくら屋" という夜のお店で姉さまたちの手伝い。そんな生活を私はしている。と言っても、以前の非合法的な空間だった吉原とは違う。
 今は綺麗に着飾った女たちに、せめてお酒を酌をしてほしい、話し相手になってほしいと心癒されに来る人がほとんどだ。飲み屋に近い感覚なのだろう。
 時間は要するけど、吉原も変わりつつある。




「なまえ姉もお店に出れば良いのに。可愛いから、すぐ指名がつくよ! 」

「せ、晴太くん、どこでそんな言葉覚えてきたの?」

お前晴太は余計なこと言わないの! あと、そんな言葉教えたのはきっと、銀さんだね? 」



 軽く晴太くんを叱った日輪さんは、私を見て複雑そうな表情を浮かべる。大丈夫だと、微笑んでも、日輪さんの表情は曇ったままだった。


 私は吉原で育ちながら、遊女にはなれなかった。そして、今も表舞台には立たない理由がある。



「なまえ来たヨー」



 可愛らしい声が店内に響く。一仕事終えた銀時さんたちが暖簾をくぐってやって来た。お疲れ様でした、と声をかけると銀時さんは私を見て小さく微笑む。



「万事屋さん。相変わらず仲良いですね」
「よぉ先生。白昼堂々とサボりか? 」
「銀ちゃん人のこと言えないネ」
「アンタ目を離すといつもサボってるでしょ」



 神楽ちゃんと新八くんに言い負かされる銀時さんを、新井先生も晴太くんも日輪さんもニコニコして眺めている。
 この光景を眺めるのが好きだった。



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