4. 夜の街



 陽が沈む。白い月が姿をみせる。大通りの店に灯りがつき、美しく着飾った女たちが夜の街に姿を現す。





「なまえー早く来てー! 」
「今行きますー! 」

「こっちもお願い」
「はーい! 」

「帯が足らないんだけどー」
「入口に置いておきました! 」





 女たちが慌ただしく行き交う廊下を、私は人一倍、素早く駆け抜けた。的確に姉様たちの言葉に応え、呼ばれた部屋に飛び込む。



「なまえ、ごめんなさいね。本当は休みだったのに。
もうすぐ吉原で祭りがあるせいか、最近忙しくて」
「女将さん、」



 この店、"さくら屋" をまとめる女将さんは、申し訳なさそうにする。私はお客さんに出す料理の盛り付けをしながら、顔だけを女将さんに向けた。



「いいんです。これくらいさせて下さい。
私が今もここで働けてるのも、女将さんのおかげですから」
「なまえ……」
「早く終わらせて、休憩しましょ! 」




 そう私がつとめて明るく言ったその時だ。







「きゃぁ! 」







 甲高い叫び声。驚いた女将さんと顔を見合わせ、裏口から外に飛び出すと、道の真ん中には着飾った女と浪人らしき男。

 只事ではない雰囲気が一目で分かる。しかし、道ゆく人はチラリと横目でみながら、誰も止めない。
 吉原では、男女の痴話喧嘩こんな光景など珍しくないからだろう。むしろ、好奇の目で様子をうかがっている。



「なんだいケンカかい? これ以上騒ぎ大きくするなら、百華を……って、なまえ! 」



 女将さんの声が背後で聞こえた。



「デカイ顔してこの街歩くのも大概にしな! ここは女の国だよ」
「貴様ぁ! 」



 浪人は女の胸ぐらを掴むが、彼女も負けじと何かを叫ぶ。



「その辺で、やめて下さい」



 浪人が声を荒げた所で、私は二人の間に入り、その男の太い腕を、振り払われるのを覚悟で掴んだ。


 急に現れた私の存在が、癇に障ったらしい。浪人の目つきはさらに厳しくなり、女から手を離したと思うと、今度は私の胸ぐらを掴んできた。




「いっ、た」
「邪魔をするな! 」




 想像以上に力が強い。




「っ…」




 苦し紛れに、浅く呼吸をした次の瞬間、胸の圧迫感がなくなり、私は一気に息を吸い込んだ。
 助かったと思った矢先、男の手が急に離れた事で、体が後ろへ傾く。転びそうになった私の左腕を誰かが掴んだ。無理やり引き剥がされたらしい浪人は尻もちをついていた。




「乱暴はよしなよ。女は大切にしなきゃいけないヨ」




 訳の分からない状況の中で、そう遊ぶようなトーンの声がした。



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