
26. スーパーヒーロー
「なまえはなるべく目立たないように、姉さんたちの後ろにいるんだよ」
「わかりました」
幕府のお得意様が来たら、姉様たちと一緒に座敷に上がって、ある程度になったら退散する。
そうこれだけ。大丈夫、あの時のようにはならない。
深呼吸をして、鉄格子が張られている、牢獄のようなところに足を踏み入れる。ここは張見世。
以前ここは遊女が自分の姿を見せ、それに魅了された遊客を店に招き入れる為の場所だった。
それが今や、吉原の女とお客が気軽に会話するためのスペースになっている。
実際、姉様達とここで、話をして楽しかったから、さくら屋で宴会を開いたというお客さんの話を聞いたことがある。
「なまえ、雅は大丈夫なのかい? 」
「しかも、代わりにお前さんが店に出るなんて……」
「なまえ、アンタもムリするんじゃないよ」
張見世の中はすでに着飾った姉様たちであふれていた。何人かの姉様は事情を知っており、心配そうに声をかけてくるので、大丈夫だと笑って伝える。
橙色の灯りが夜道を照らし、道ゆく人の姿を照らし出す。姉様たちは手を招き、楽しげに道ゆく人を魅了している。
私といえば、先程の威勢はどこへやら。緊張で歯がカタカタ鳴っていた。
すると数人の男が店先に近づいてくる。見定めるように、姉様たちをジロジロ眺め、ニヤニヤと好ましくない笑みを浮かべていた。
未だにこういう人はいる。冷やかし目的か。カチリと1人の男と目が合ってしまった。
「ねーちゃんがこの中で1番若そうだなぁ。
どうだい? 俺の疲れた心と身体を癒してくれよ」
「わたし、ですか? 」
お得意さんが来るまで、姉様たちの影に隠れているつもりだったのに見つかってしまった。
男から向けられる下心丸出しの瞳が、私の恐怖心を煽る。
姉様たちに助けを求めるが、他のお客さん相手でそれどころではないらしい。
月詠さん、早速大丈夫じゃないみたいです……
格子の間から手を伸ばされ、油断していた腕を掴まれる。ぞわりと鳥肌が立ち、固まってしまった。
「あの、」
「悪ィな、おっさん。この子はもう俺が目ェつけてんだ」
男の背後から現れたのは、私のよく知る人物。男の肩に手を置いて、にこやかな黒い笑みを浮かべてる。
「銀時さん、」
「なまえが囚われの姫みたいネ。この檻ぶっ壊していいアルか? 」
「神楽ちゃん、落ち着いて。そんなことしたら、僕らが別の檻に入れられちゃうよ」
神楽ちゃんはポキッと指を鳴らして戦闘モード。彼女なら簡単にこんな鉄格子、粉々にできるだろう。
見知った人たちが目の前に現れ、どうしても頬が緩んでしまう。
3人はスーパーヒーローみたいだ。
男は銀時さんの黒い圧に萎縮して、一目散に逃げ出す。それは晴太くんがイタズラをした時に放つ日輪さんの黒いオーラによく似ていた。
「ありがとうございました。3人とも」
「なまえ、可愛いアル。銀ちゃん鼻血出ちゃうヨ」
「神楽ちゃん、もう出てる」
新八くんが呆れた顔でティッシュを銀時さんの鼻に詰め込む。お世辞でもそんな風に言ってもらえて嬉しい。お礼を告げれば、銀時さんは血だらけの親指をグッとあげた。
「どうしてここに? 」
「月詠さんから話を聞いて来たんですよ。僕たちも今日は、さくら屋の警備しますね」
「変なやついたら、私に任せてヨ」
雅が襲われたことみんな知ってるんだ。
そしたら3人は大丈夫なのだろうか。まだ襲った人が近くにいるかもしれないのに。
「なまえ、俺たちの事は心配すんな」
私の気持ちを見透かしてた銀時さんは先回りする。格子越しに頭を撫でられた。
「なまえー」
廊下から私を呼ぶ姉様たち。まもなく幕府のお得意様が来る頃だ。3人は行ってこい、というように頷く。みんなの顔をみて、私の緊張もいつの間にか、ほぐれていた。
和楽器を姉様たちに教え込まれたのを思い出して。私もきっとできる。
小さく手を振り、3人に見送られて私は座敷に上がった。
「可愛いって言いそびれたアルな」
「銀さん、チキンですね」
「うるせェェ! チキンだのチェリーだの、仕方ねェだろ! 」
顔を赤くした銀時さんが、2人に慰められてたことを私は知らない。