30. 血まみれの 神威side



止められた。小さな震える手に。
いや、振り払う事だって出来た。
こんな真綿みたいな力。




「なんで、止めるの? 」




 真っ青な顔をしてる彼女は、振り上げた拳に手を伸ばし、精一杯の力を込めて掴んでくる。
俺は理性を失ってない。夢中になるとやめられないだけだ。




「そんな力で殴ったら、その人もう……」




二度と目は覚まさないだろうね。分かってるよ。



地球ココでいう、正当防衛だろ? これ」



 強めの口調で言っても、彼女は黙って首を横に振る。
 アンタの手が震えてるのは、この男に対してか、それとも俺に対してなのか。



 なまえの過去は、女たちが噂話してるのが耳に入った。だから、障子の隙間からあの光景が見えた時、血が沸騰した。あの男の息の根を止めることしか俺の頭にはなかった。


 身体は勝手に動いていて、気づいた時には、もう遅い。
 障子を破壊し、男を蹴り上げていた。



「腕、手当てしないと……傷、ついてます」



 俺を止める為に引き出した精一杯の言葉。自分の腕を見れば、確かに陶器の破片が刺さってじわじわと血が出ている。障子を破壊した時に、部屋の置物も粉々にしたらしい。


 俺は静かに拳を下ろした。なまえの首や肩に、赤いアザが浮き出ている。この男に圧迫されてたせいだ。着物も髪もそのせいで乱れている。




「……傷ついてるのは、アンタだろ」




今にも泣き出しそうな顔してるくせに。
いつも他人のことばかり。




 深くため息をつく。すると彼女も腰が抜けたように座り込んだので、同じように膝を折る。怯える彼女の瞳から、涙が溢れていた。




「神威さん」

「なに? 」

「来てくれて、ありがとうございますっ…… 」




 畳の上にポタポタと落ちる。その涙を拭ってもいいのか分からなかった。
 少なくともなまえは今、男という生き物を恐れているだろう。




「……俺の手が、怖い? 」




 くだらない保険をかけてまで、なまえに拒絶されることを怖がるなんて、宇宙を飛びまわる海賊が聞いて呆れる。


 しかし、その問いが意外だったみたいで、数秒目を丸くした後、遠慮がちに無防備な俺の指先に彼女は触れた。



「怖くありません。だってこの手は、私を助けてくれた手だから」



 ゆっくりと、そのままなまえの頬に触れる。安心するような顔になったのはきっと気のせいだ。




「温かい、です」




 いつか、なまえは血にまみれた俺の手を、振り払う時がくる。




「……そう」




 だから、今だけは触れることを許してよ。



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