
33. 瞳の先に映るのは 阿伏兎side
上を見上げれば、白いデケェ月が目に入る。
屋根の上にいるから余計か。それに重なるようにして視界に入ってきたのは、嬢ちゃんの家を飽きずにずっと眺めてる団長だった。
「そんなに心配なら、団長が行けばよかったんじゃねェのか」
声をかければ、珍しく弾かれたように目を丸くする。眺めていたことをバレたくなかったようで、いつもの顔にすぐ戻っちまった。
「上司の命令を素直に聞いてくれる部下をもって、俺は幸せ者だね」
俺の会話に答える気はないらしく、おどけるように肩をすくめた。
さっきの会話を思い出す。余裕もなく、必死に団長の安否を確認する嬢ちゃんの姿。
そもそもこの団長サマを心配する奴がいるなんてなァ。殺しても死なねェような
「なんでそんなに嬢ちゃんにこだわるのか、俺には不思議でならねェよ」
ついでに嬢ちゃんが団長にこだわる理由も。
どんなに金を積まれても、若く豊満で、世の男なら一度は手を出すであろう美女がいても、一瞥もしなかったあの団長が。
吉原の花魁でも、ましては遊女でもない。ただの娘に熱をあげている。(ように俺には見える)
そんな美人だったか…? いや愛嬌ある奴だとは思うが、あの嬢ちゃんの何が団長を突き動かすのか?
嬢ちゃんもそうだ。団長の面が良いことは認めよう。でも中身は、言っちまえば怪物だ。どう考えても、普通の人間である嬢ちゃんとは釣り合わない。
「いやいや、そんなのは理屈じゃねーよな。団長にもついに、春が来たってこったァ」
「何を想像してるか知らないけど、別にアイツのことは好きじゃないよ」
……は?
開いた口が塞がらない。何を言ってるんだ団長は。じゃあ今までの
「団長マジで言ってんのか? 」
「阿伏兎こそ、何言ってんの。それ以上言うと仕事倍にするよ」
「自分の仕事、押し付けたいだけじゃねェか……」
バレたか、とイタズラしたガキみたいに笑う。相変わらず、面倒事をかわすのはうめェな。
そんなことより、おじさんも結構長い間生きてきたからね。
これが恋か鯉かくらいは分かるってホントに。
「ねぇ、阿伏兎」
「団長の仕事はしねーぞ」
ため息をつく。あまりにも戦場にいるのが当たり前になってトキメキも忘れちまったのか、うちの団長は。嬢ちゃんも気の毒に…
「でも、護りたいって思うよ。アイツのこと」
……いや別冊マー●レットォォ!
何だよ、焦ったくさせやがって。遠回りの恋ってやつなのかァ?
星の数ほどいる女の中で、なぜあの嬢ちゃんだけは特別なのか。なぜ、護りたいと思うのか。
団長自身も気づいてないらしい。ややこしい事になる前に答えを出してやろうかと思ったが、やめた。
「なるほどねェ……」
団長、それは台詞は嬢ちゃんのことか。はたまた、遠い昔に置いてきた家族のことを思い出したのか。
その顔は家族を護りたいと言っていた、ガキの頃の団長と同じじゃねーか。