
34. 夜兎の血 銀時side
「銀ちゃん、もう怪しい奴ら片っ端から潰してくのがいいアル」
「バカ、それは最終手段だ」
「それ余計な仕事増やすだけですよ。地道にいけば何か掴めます」
「悠長なこと言ってんなヨ新八ィィ!
お前、なまえがどうなってもいいアルか?! 」
胸ぐらを怪力娘に掴まれた新八は数メートル先に投げ飛ばされた。頼んでもないのに、いつもの風景を繰り広げてくれるアイツらをよそに、俺は深くため息をつく。
あれから、なまえの周辺を調べてはいるが、何も掴めてない。なまえを恨んでる奴なんていない、と関わりのある奴らは言う。
んなこと、俺も分かってるっつーの! だからこそ、なまえが狙われる理由がわからない。
あの人斬りに依頼をした犯人を捕まえないと、この事件は解決しねェ。
数日前にひのやで見たなまえを思い出す。
さくら屋の噂を聞いたアイツは、ひどく傷ついた顔をしてた。けど、そんななまえを見て、俺はいつも通りに接することが出来なかった。
俺が触れて、あの時のことを思い出したら、余計にアイツを傷つける。
伸ばした手はアイツの柔らかい髪に触れることなく宙を漂った。
「どうすればいいんだよ」
「あと、なまえとは関係ないが、新たな問題も吉原で起きておる」
俺の小さな呟きは聞こえておらず、月詠は壁に寄りかかり、胸元から何かを取り出す。小袋の中身は大量の半透明な粒。
「あ? それただのざらめじゃねェか」
「ざらめって甘いやつデショ。私食べたいネ」
「それの何が問題なんですか? 」
「これは、十数年前に開発された
「……はい? 」
急な横文字を言われても俺にはさっぱりだ。
「噂によれば、あの宇宙海賊 春雨で作られた非合法的な薬。その脅威さから、強制的に開発中止に追い込まれた」
袋を受け取り中身を確認するが、匂いはない。どんな効果がある薬なのか。
月詠が一瞬神楽を見る。神楽はキョトンとした顔をして次の言葉を待った。
「これは、普通の人間をあの戦闘民族、
……夜兎と同等の身体能力を発揮させる薬じゃ」
♢
この粒が、
いやいや、うちの神楽ちゃんも相当強いからね?こんな粒飲んだくらいで、同じなんて言われちゃ、万事屋の名が廃るよ、ほんと。
歌舞伎町に戻り、手の中で月詠から預かったハーゼブルート? を持て余し、聞いた情報を思い出す。
___正確には、完全に同じではないが、非常に高い身体能力を得られる。
が、身体に負担がかかり過ぎて、普通の人間が使用するとどうなるか。
理性を失い、身体はその突然の負荷に耐えきれなり、壊れる___
そんなのが吉原で出回り始めてるってのか。なまえの問題も解決してないのに、次々と……
「銀ちゃん、それ」
風呂から出た神楽はタオルを首にかけ、俺の手の中にあるコレを指さす。珍しく眉間にシワを寄せて、難しい顔。何かを言いたげだ。
「私、ブ●ーレットの事は知らないケド」
「いや、トイレに置くヤツなそれ」
「あのバカ兄貴なら、何か知ってるかもしれないアル」
神楽の兄貴……あの飄々としたアイツか。たしかコレは昔、春雨で作られたとか言ってたな。
でもあの兄貴。俺に会ったら絶対殺りにくるよね? 話聞くどころじゃないよね?
あの、口より先に手が出るような野蛮なヤツと、ちゃんとお話出来る自信ないよ銀さん。
「……コレ出回ったらどうなるアルか? 」
「まぁ、夜兎並みの戦闘力をただの人間が発揮できるなら、他の戦闘種族、夜兎の力を欲する奴らが血眼になって欲しがるだろうな」
そんな事になれば、吉原は一気に戦場になる。
いや、もうどこまで情報が回ってるのかわからねェ。吉原だけじゃなく、他の町にも影響を及ぼすかもしれない。関係のない人々も巻き込まれる。
「……絶対、そんなことさせないアル」
「あぁ。誰も危険になんか晒さねーよ」
なまえも、アイツの居場所も俺たちが守る。
……そうなると、俺たちだけじゃ情報を集めるには限界があるな。
"ドSマヨラーゴリラ" トリオに頼むのは癪だが、税金ドロボーにもたまには仕事をしてもらうか?
見慣れた顔を思い浮かべて、ハッと我に返り、急いでかき消す。
「おいおい、家にいる時までアイツら思い出しちゃったよ。胸クソ悪りィ」
とりあえず新鮮な空気でも吸おう。うんそれが良い。
外に出れば、わずかに欠けているが月が歌舞伎町をぼんやりと青白く照らしていた。
そう言えば、祭りの日は星がよく見えたな…
「待てよ…」
あの時、犯人は間違ってそよ姫を連れ去ったんだよな。
提灯を落として、町の灯りを消したのは人々を混乱させる為っていうのはわかる。(大規模すぎるが)
あそこには大勢の人がいた。にもかかわらず、なんで姫さんを選んだのか。
暗闇から誰かを連れ去るなら、なおさら慎重になるはずなのに、何で犯人は間違えたんだ……?