36. 夢と現実の狭間で



 ふと、目を覚ませば辺りは真っ暗だった。右も左も、前も後ろも分からない。




「なまえ」




 後ろから名前を呼ばれて振り向けば、雅だった。頭に包帯を巻いている。




「雅! 起きれるの? もう大丈夫なの? 」

「……なまえのせいよ」




 その言葉と同時に、突き飛ばされる。雅からの言葉の意味を理解するより前に、別の言葉がふりかかる。




「日輪が怪我をしたのも、お主のせいじゃ。もう、日輪と晴太に近づくな」




 驚いて振り返れば、月詠さんは見たことのないような、冷たい瞳をしていた。その背後から音もなく現れたのは女将さんだ。




「なまえ。店の為に、みんなの為に、吉原から出てっておくれ」

「お、女将さん」




 私を取り囲むように迫ってくる。耳を塞いでも聞こえてくる。氷のように冷たい言葉たち。




「い、いや」
「なまえ」




 逃げようとすれば、また誰かにぶつかる。強く腕を掴まれて動けない。ギリギリと逃がさないというように力を込めてくる。





「銀時さん……神楽ちゃん、新八くん……」





 私の腕を掴むのは銀時さん。いつもの眠そうな瞳は光を灯しておらず、無表情。





「こうなったのも、なまえのせいだろ? 」

「もう、私たちに近づかないでヨ」

「なまえさん、さようなら」





 軽蔑するような視線が、ナイフのような言葉が、私に突き刺さる。
 違う、違う……こんなの私の知ってるみんなじゃない。





「じゃあな、なまえ」





 銀時さんは吐き捨てるように呟いた。同時に掴んでた手を離され、私はよろめき、転んでしまう。しばらくその場から動けなかった。
 弁解したいのに、声が出ない。溢れるのは涙ばかりだった。





「うぅ……あっ……っ」




 もう顔も上げられない。声が詰まる。途切れ途切れに漏れる言葉は、自分でも何を言ってるのか分からない。



 トッと誰かが私の前に立つ。うずくまっているのに、なぜかそれだけはわかる。






「なまえ」


 



 知ってる。柔らかく私の名を呼ぶこの人は間違いなく、神威さんだ。
 ボロボロの顔を上げれば、あの鮮やかな青と目が合う。



 神威さんはしばらく私を見下ろすと、ふいに微笑んだ。貼り付けた見たことない笑顔を私に向け、薄いその唇を開いた。





「目障りなんだよ」





 それだけを言い残して、神威さんは暗闇に消えた。
 私に一瞥もくれず。





 まるで私なんて初めから、いないかのように。



TOPへ