42. 置いてきた記憶 神威side



自分を欺き続けた








これはきっと罰だ。



















「調査? 」

「あぁ。地球のある村でハーゼブルート。
すなわち戦闘能力倍増の薬がどうやら作られてるらしい」


 噂だけどな、とあくびをしながら阿伏兎がつぶやく。

 確か、ただの人間が夜兎と同等の身体能力を手に入れられるという、数年前に開発中止となった代物。それがまた出回り始めたと噂された。

 夜兎族のみで構成される第七師団にその仕事が回ってきたと。幼いながら、俺にもわかった。




「上からのお達しだ。お前も来い」




 なぜ俺まで。
 第七師団に入り、月日が経った頃だった。しかし、阿伏兎や鳳仙のように一人前に業務をこなせるほど、場数を踏んだわけでもない。


 深くため息をついた。妹を抱えていた腕は、今や人を傷つける為の刃に成り果てた。
 朝から晩まで、喧嘩喧嘩。最初は確かに戸惑った。でも慣れてしまえばなんてことない。


 自分の手が汚れることも。血の匂いも。















「普通の村じゃん」



 なんの変哲もない場所だった。民家と畑と山と。こんな所で本当に薬が作られてるのか?



「つーか、いくら怪しまれないようにって何でガキと2人きりなんだよ。
てか、こんな黒い服着てる時点で怪しいよね俺たち」

「ガキって言うな」



 阿伏兎は面倒くさそうに頭を掻き、うなだれていたが、俺はそんなのシカトして、村を歩いてみる。
 半信半疑なこんな仕事、早く終わらせようと、村のおさに直接話を聞きたいが、見つからない。





「母さん」
「!」





 驚いて振り返れば、手を繋いだ親子が遠くに見える。幸せそうに。




「思い出したか。置いてきた家族のこと」




 自分よりもはるかに背の高い阿伏兎の声が、頭上から聞こえる。その言葉に反応した自分にも嫌気がさし、さらに見抜くように指摘された事が余計に腹が立った。




「忘れたよ。そんなの」

「……かわいくねェガキだな」















 一軒の診療所が見えた。薬を扱うならこういうところに紛れて、というのもありえる。
 阿伏兎と共に入れば、1人の青年と看護師らしき女。そして医者の男。




「どうしたんだ、ボク。どこか怪我した?」




 急に話しかけられ唖然とした。男は優しげな雰囲気をまとっていて、俺たちに対してなんの疑いもしてない。怪しむのが普通だろ。こんな黒服のヤツ2人が来たら。
 反対に女と青年は、不審がる様子で遠巻きに俺たちを見る。



 阿伏兎を見れば小さく頷き、その医者の男にしか聞こえないように耳打ちした。もう手当たり次第に探すのが面倒になったのだろう。





「この村の長に会わせてくれ」

「あなたたちは、」

「ある調査でここに来た。

俺たちはこの村にも長にも、危害を加えるつもりはない」





 その医者は、一瞬で何かを察したようだ。外に出て欲しいと視線を送られる。たとえこの男が身の危険を感じて襲ってきたとしても、夜兎の俺たちに敵うわけもない。
 それを見越して、俺も阿伏兎も言われるがまま外に出た。





「少し待っててほしい。君たちのほしい情報を私は知っている」





 そう言って診療所に戻った男。上を見れば雨雲が立ち込め、今にも降り出しそうな空だった。









 悲劇は突然起こる。









「うわぁぁぁ‼︎ 」







 悲鳴と破壊音。
 察した俺たちが急いで中に入れば、床は血で染まり、部屋の奥にはさっきの医者が倒れている。


 俺たちに気づいて振り返ったのは、さっきの看護師らしき女。目は血走り、口からはよだれが溢れてる。腕を見れば破れた服から無数の針の跡。




「ヴゥアァ」
「この女、まさか薬を」




 阿伏兎が言葉を終える前に、俺たちに向かって走り出した。距離が近くなるのが分かるのに、俺はその場から動けなかった。





「馬鹿野郎‼︎ 何してんだ! 」





 目の前には阿伏兎の背中。そのさらに前にさっきの女。番傘で防御しているが、ミシミシと傘が軋んでる。相手は素手なのに。









慣れたなんて嘘だ。









___……神威、強くなれ









___……神威をいじめないでよ!









___……神威、あなたたちはそのままでいて









 今でも夢にみる。俺の家族、だった人たち。でも、捨ててきた。自らの意思で。

 家族でいては母さんを助けられないのに、母さんは俺たちと家族でいることを選んだ。
 たとえ家族じゃなくなっても、俺は家族を護りたかったのに。



 母さんはもういない。俺の家族はもういない。俺にはもう、強くなることしか残ってない。だから第七師団ここに来た。



 なのに、なんで俺は動けないんだ。



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