
44. 似た者同士 沖田side
旦那から頼まれた調査を終え、未だに俺はさっきすれ違った女が気になっていた。
直感ではあるが、下手すりゃこのまま霧と共に消えちまいそうなくらい、弱々しい雰囲気をまとっていた。
「もう居ないんじゃないですか?」
山崎が運転しながらぼやく。確かにあれから随分経っている。女が言うように本当に家に帰ったのなら別にいい。
「この階段上がると、確か古い神社ありますよね」
なんとなく車を路肩に駐車した山崎の言葉を、右から左に聞き流す。その石階段をボッーと見上げていた時だ。
なんとなくおかしい。人がいる、気がした。
「気をつけて下さい、沖田隊長! 」
山崎を残し、さほど段数も多くない石階段を登る。
幾分、小降りになった雨だが、霧が立ち込めて視界は未だに悪い。かすかだが、雨の匂いに混じって血の匂いがしてきた。
「何ですかィ、これ……」
階段を上りきった先に見えた光景は、息を呑むものだった。
大勢の人が倒れている。いや、人と呼べるのか? 中には天人もいる。血の海の中に。
唖然としていれば、真ん中にポツンと佇むヤツを見つける。そいつは血まみれだった。
そいつは振り返り、こっちに向かってくる。
隠れるようにマントを上から被り、顔が見えない。
女なのか男か分からないが、コイツが始末したのだろう。おそらく1人で。
抱きかかえているのは、さっきの女だ。まさか、コイツ女も手にかけたのかと思ったが、規則正しく息をしているから、気を失ってるだけだろう。
そいつは俺のことなど見えていないかのように、横を通り過ぎ、階段を降り始めた。
「止まりなせィ。アンタ、その女どうする気でさァ」
シカトするかと思えば、意外にもぴたりとその場に足を止めた。まぁ、止まらなかったら、無理やりでも女をそいつから引き離すつもりではいたが。
俺を見向きもせずにそいつは答えた。
「見て分からない? 介抱してるんだけど」
「血まみれで介抱してる奴なんて初めて見やした。
俺には連れ去ろうとしてるようにしか見えねェよ。
アンタ、何者だ? 」
「人に尋ねる時はまず、自分からだろ? お巡りサン」
俺を振り返り、お巡りという言葉を強調しながら挑発するような笑み。声の質からしておそらく男。その瞳に、見覚えがあったが、今は気づかないふりをする。
「テメーは危ねぇ匂いがするんでさァ」
「人のこといえるの?
アンタも血の匂いを嗅ぎつけてきたんだろ。
お巡りの
ピリッと何が沸き立つ。ただもんじゃねェ。
幾多の戦場を経験してきた奴の匂いだ。それは目の前の男も俺から感じたようだった。
「何言ってんだ。俺ァ、れっきとしたお巡りだ。
もう一度聞くが、その女をどうする気でさァ」
「心配ないよ。家まで届けるだけさ。
あとそこに転がってる連中、優秀なお巡りサンなら片付けといてよ。
逮捕するには結構な大物だと思うけど? 」
貼り付けた気味の悪い笑みを向けられる。胸くそ悪い。笑顔を見せる割には、女を手離す気などさらさら無いようで、全く隙がない。
でも女に危害を与える気もないこともわかる。抱える腕を見れば。
殺気立った瞳と違い、まるで、大事なモノを抱えているようだった。
「沖田隊長、何かあったんですかぁ 」
場をぶち壊す間延びした山崎の声が聞こえてきた。
それを狙ったのか、そいつは俺からその一瞬の隙に距離をとり、霧の中へ消えていった。
「またね。お巡りサン」
「じゃあな、悪党」
奴とはいずれどこかで会う時がくる。そんな気がした。