
45. 迷わず 銀時side
なまえの行きそうなところを手当たり次第に探すが、どこにも居ない。当てもなく彷徨っているのだとしたら、さらに見つけるのが難しい。
いつの間にか切り取られたような丸い月が姿を現していた。それに伴うように、吉原の町は夜の姿へと変えていく。
「どこだ、なまえ」
見つからないことと、なまえに何かあったら、という不安で苛立ちが抑えられない。頭を抱えていたその時だった。
ちょうどこの場所は吉原が一望できる大門付近。なまえの家の方向に向かう何かがいた。あれは人か?
目を凝らして見れば、頭から布を被り、いかにも怪しい。
なんでもいい。なまえが見つかる手がかりが掴めるかも、と淡い期待を抱き、急いでそいつを追いかける。
「おい、止まれ」
誰も通らない路地裏に俺の声はよく響いた。
大通りは賑やかな声がしているのに、コッチは薄暗く、灯りも少ない。
近くで見てわかったが、後ろ姿のコイツの腕から、誰かの頭と足先がはみ出してユラユラ揺れている。抱えているのか?
視界が暗いため、一応距離を空けてさりげなく木刀を掴んだ。
「……今日はよく絡まれるな」
面倒くさそうに振り返ったそいつと、抱えてる人物を見て俺は驚愕した。
紛れもない。腕の中にいるのはなまえだった。眠っているのか、規則正しく呼吸をしている。とりあえずは無事のようだ。
「そんな怖い顔しないでよ。お侍さん」
俺が徐々に怒りを露わにしてるのを分かっているのか、面白がるように、わざとらしく陽気に声を上げる。顔を露わにしたコイツは、鳳仙の時に会った神楽の兄貴。
相変わらず、貼り付けた笑みを浮かべて、瞳の奥は殺気に満ちてる。
「どういう訳か知らねェが、とりあえずその子返してくんね? 」
「ははっ。返せだなんて、まるで自分の所有物みたいに言うんだね」
こちらの気持ちを知ってか、知らずか、揚げ足をとるような飄々とした態度にまたさらに怒りが募る。
なまえを見ると着物がところどころ赤い。明らかに血だ。
「テメェ、なまえに何した? 」
「……俺が何かするわけないだろ。
この血は襲ってきた奴らのだよ。なまえのじゃない」
質問に対して心外だというように俺を睨みつければ、今度は向こうが怒りを露わにした。
コイツがなまえを助けたってことか?
てか、なんでなまえを知っている?
どういう関係なのか?
たしかに、よく見ればコイツの服にも血が大量についている。相当な数がいたらしい。
溢れるのは疑問ばかり。それを見越したコイツは半笑いを浮かべていた。
「聞きたいことが山積みって感じだね。お侍さんも好きな奴の前では、ただの男か」
そう言うとズカズカと俺に近づき、腕に抱いていたなまえをどうぞ、というように差し出す。久しぶりに見たなまえに俺は安堵を隠せない。
「心配ないよ。気を失ってるだけ。
……目が覚めた時、近くにいるのはアンタの方がいい」
なんだその弱気な発言。俺を殺そうとしてる奴だとは思えないくらい、一瞬ただのガキに戻りやがった。
「アンタと殺り合うのはまた今度にするよ。今はそれどころじゃないって感じだし」
お前も知ってるはず、と視線で訴えられ、腕にかかえたなまえを見て答えた。
「夜兎の薬、なまえが誰かに狙われてる、だろ? 」
「ご名答。調べたんだ」
「気に食わねーけど、腕が立つポリ公がいるんでね」
そういえば、総一郎くんから調査の結果報告がしたいって電話あったような、なかったような。
「なまえのこと、よろしくね」
それはさっきの飄々とした態度とは打って変わり、至って真剣に、殺気もなくただの純粋な願いのように思えた。
そういう顔も出来んのかよ。
「お前はどうすんだ? 」
立ち去ろうとした奴に向かって問いかける。
同じだろ? お前も。なまえのことが特別なんだろ。なのに、自分から手離して、俺に頼むなんざ心は穏やかじゃないはず。
「……俺はそばにいるべきじゃない。それはなまえも望んでることだ。
俺は俺のやり方で決着をつける」
でも、とまだ何か言いたげな言葉の続きを待つ。規則正しく寝息を立てるなまえが、ふいに俺の服をキュっと掴んだ。まるで、行かないでというように。
「なまえに何かあったら、俺はアンタを迷わず殺すから」
そのつもりでね、と笑みを浮かべてヤツは暗闇に消えた。
なんつー物騒な台詞を言い残すのか。大きくため息をつき、独り言を呟く。
「よろしくって言いながら全然信用してねーの。な?」
なまえに問いかけたが、もちろん答えはない。細い指先は縋るように俺の着物をもう一度掴んだ。