57. 鉢合わせ 新八side



「はぁ?! 新井先生は偽物? なんじゃそりゃ」


「旦那、最後まで聞いてくだせィ。

本当の名は華岡春市。
やつも同じでさァ。なまえちゃんと同じ北の村出身。
華岡の母親は名前は”華岡ヨル”


謎の薬を開発してたそうで、おそらく村が滅びた原因はソレ」


「銀さん、それって」



 沖田さんの言葉に、月詠さんから教えられた、ハーゼブルートを思い出す。それは銀さんも同じようで、僕たちは顔を見合わせ頷いた。



「その薬に心当たりがありそうですねィ」



 沖田さんがニヤリと笑う。でもおそらく、なまえさんは新井先生と面識があったことに気づいてない様子。二人の間に一体何が……?



 そうこうしてる間に、吉原に着いた。車から降りて辺りを見渡し、飛び込んできた光景に息をのむ。




「なんでィ、これは……」




 沖田さんの言葉が宙を舞う。この空気を破るかのように声を上げたのは、神楽ちゃんだ。



「銀ちゃん、私はツッキーと合流するアル! 」
「あ、神楽ちゃん! 」



 返事を聞く前に、神楽ちゃんは定春に乗り、さくら屋のある方向へ走り出す。



「とりあえず、俺らは診療所に行くぞ! 」
「はい! 」



 銀さんに告げられ、腰にある刀を確認するように触れる。沖田さんは真剣な顔つきで「旦那」と銀さんを呼んだ。



「状況確認するのに俺はあっちに行きやす。なまえちゃんは頼みやしたぜ」



 そう告げると、運転していた仲間と共に駆け出した。




 逃げ惑う人々とは反対方向に全力で走る。ボヤ騒ぎが起きてるいるのか、所々煙が小さく上がっていて、百華のみんなが消化活動をしていた。もうすぐ診療所、というところで突然、




「きゃぁぁ! 」




 悲鳴が上がる。声のした方を向けば、少女がうずくまり震えている。そのすぐそばには、首を左右に揺らし、まるで操られてるかのような男の姿。



「ヴァァ」



 今にも襲いかかろうとしている。この距離じゃ間に合わない。



「銀さん、あれ! 」



 僕の声と同時に銀さんは木刀を抜き、その男にめがけて思い切り投げつけた。
 痛々しい音が鳴り、カランカランと木刀が地面に転がる。木刀は男の頭にヒットし、その衝撃で気絶したらしい。



「おい、早く逃げろ! 」



 銀さんの叫びに、少女は我に返ったように、泣き止み、走り去っていった。銀さんは安堵した顔になり、木刀を拾い上げる。伸びてる男はそのままにし、僕たちは診療所へと急いだ。







___







「新八、とりあえずなまえを探すぞ」



 診療所につくや否や、どちらともなく、二手に分かれる。銀さんは診療所の周りを見てくれるらしい。
 僕は診療所へ入り、廊下を進む。そんなに大きくないから、僕一人でも探せそうだ。
 しかし、誰の姿もない。人の気配もない。やはりココにはもういないのか。そう思った矢先のことだった。
 ぬぅっと診察室から黒い影が出てくる。瞬間に僕は刀に手をかける。




「お、お前は…! 」




 その姿に見覚えがあった。無意識に言葉が口をつく。わずかに怯えをはらんだ声色になってしまい、刀を持つ手も、震えてる。
 クソ、こんな事で怯えるなんて、情けない。目の前の人物は、ゆっくりと僕の方を振り向く。




「……あン時、嬢ちゃんと一緒にいた坊主じゃねェか」




 コイツは、吉原炎上の時にいた、夜兎。とんでもない強さで、まるで歯が立たなかった。無意識に鳩尾に手をやる。
 コイツと戦う、覚醒した神楽ちゃん。彼女が彼女でなくなりそうで、正直怖かった。神楽ちゃんの意識を繋ぎ止めるのに精一杯だった。




「なんで、お前がココにいる! 」

「おいおい、落ち着けよ坊主。俺ァ喧嘩しに来たんじゃねェよ」




 そんなこと信じられない。下手したら僕たちはあの時死んでた。こいつによって。




「ここで何してるんだ! 」

「強いて言えば、坊主と同じだよ。おっぱじまった喧嘩を止めてェだけだ。お前らもあの茶屋の嬢ちゃんを助けてェんだろ? 」




"茶屋の嬢ちゃん"
なまえさんのことだ。コイツなんでなまえさんのことを。




「心配すんな。あの嬢ちゃんはうちの団長様がついてる。それよりも、お前ら地球人はホラ」



 突然、何かを投げられる。慌てて両手を伸ばせば、小包だった。訳もわからず、男を見やる。



「アレの解毒剤。そう言えば分かるだろ?

俺たちもこれ以上、アレが広まると厄介なんでね。この町で事を済ませたい。

だが、あいにく、地球人一人ひとりにソレを配るほど俺たちはお人好しじゃねェ」


「ほ、本当に、これが解毒剤なのか」


「怪しいってか? なら、お前らがさっき気絶させた男にでも飲ませてみるんだな。

だから、お前らの仲間にも伝えとけよ。町人を殺すなってな」


 それだけ告げると男は、ヒラヒラと手を振り去っていく。
 その顔は、あの時、屋根から落ちた僕たちを助けた時と同じ顔だった。




「あんなモンで、誇り高き俺たち夜兎の名を語られちゃ困るからな」



 その呟きは、僕の耳にハッキリと届いていた。



TOPへ