
8.ウサギお面とお姫様
「おや、万事屋さんと」
「なまえじゃないか」
歩みを進めていくと、小さなやぐらを見つける。その上には百華の人達が数名登り、街の様子を監視しているようだ。そのすぐ下に救護班と書かれた白いテント。
その近くの屋台で銀時さんとかき氷を買っていると、声をかけられた。
「どーも、先生」
「女将さん! 」
消毒液の匂いがする中を覗くと、そこには新井先生とさくら屋の女将さんがいた。水を飲みながら、うちわでパタパタと顔をあおいでいる。
「だ、大丈夫ですか? 」
「この人混みと、この暑さだろう。
気分悪くなっちゃって。新井先生がいて助かったよ」
そういえば、女将さんは近所の人たちとお祭りに来るって言ってた事を思い出す。
「こんな時にも仕事なんて、先生働き者だねぇ」
銀時さんはやれやれとため息をつく。町の治安を守る為、警備は百華が、怪我人などの対応は医者である新井先生に頼んだと、月詠さんが言っていた。
「2人は仲良くデートかい」
ニヤニヤしながら女将さんが聞いてくる。デート、なんて私には無縁な言葉だった為、銀時さんに申し訳なくて、すぐさま否定した。
「ち、違います! 銀時さんは一緒にまわってくれてるだけです」
恥ずかしくて、あははっと乾いた笑いを浮かべる。隣をみると、銀時さんはなぜか少し落ち込んでいた。
「銀さん、頑張んな」
「人の気もしらねーで……まぁいいよ」
軽く私にデコピンをして微笑む銀時さん。手に持ったかき氷を落としそうになる。
「なまえさん良ければこれ差し上げます」
先生はニコリと笑うと何かを渡してくる。その手に持っていたのは可愛らしいウサギのお面だ。
「先ほど怪我した子にお礼でもらったんですけど、私には可愛いすぎて、似合いませんから」
「いいんですか。ありがとうございます、先生」
お礼をつげ、私たちはテントを後にした。
♢
「うちにいるウサギも、そんくらい可愛いげがあればいいんだけどな」
早速頭につけたウサギのお面を、コンコンとノックした銀時さんは呟く。すぐに誰のことかわかった。
「ふふっ、神楽ちゃんですか? 」
「あぁ、こんな祭りなんて連れて行ったら、俺の財布が泣く」
「だから今日のこと、教えてくれなかったアルか」
突然の声に驚き、銀時さんと一緒に聞こえた方を振り向く。するとそこには、仁王立ちしてる神楽ちゃんの姿が。
両手にはリンゴ飴にたこ焼き、チョコバナナなど、収まりきれないくらいの食べ物。
「げっ! 神楽なんでここに」
「新八が言ってたネ。吉原で祭りがあるって。そよちゃんと来たアル」
そよちゃん?
不思議に思って神楽ちゃんの後ろをみると、彼女に守られるようにして私たちの様子を伺っている一人の女の子。
なぜか顔の周りを手ぬぐいで巻いている。まるでひと昔前の泥棒のようだ。
あれ、どこかで見た事が……
「銀ちゃんさん、お久しぶりですね」
「オイィィィ! 国の大事な姫さんこんな所に連れてくんな! 」
「女は知らぬ間に大人に成長してるものネ。お前が見てるのが全てだと思うなヨ」
「神楽ちゃんの友達って……そよ姫?!」
「なまえ、声がでけぇ! 」
みんなが一斉に喋り出したおかげで、聖徳太子にでもなった気分。
その中で、一段と大声を出した私の口を、銀時さんが焦ったように大きな手で塞いだ。私は首を縦に振り、もう大声は出さないと目で訴える。
以前の吉原が外部から隔離されていたとはいえ、その顔と名前、どんな身分の方なのかくらい私でも知っていた。
「でも、そよ姫様。このような場所に、その…あなたが来ていいのですか? 」
神楽ちゃんの友達だという事は、話を聞いて理解した。
とは言っても、第十四代 征夷大将軍
徳川茂々の実妹。
そよ姫様に何かあっては神楽ちゃんどころか、銀時さんもどうなるか分からない。
しかし、そんな心配をよそに姫様は、あどけない笑顔で答えた。
「堅苦しくしないで下さい、なまえさん。
今日は神楽ちゃんの友達としてここに来てます。
それに、私も兄のように自分の目で確かめたい。
江戸の人々はどんな生活をして、今、どんな気持ちでいるのか。
どんな未来を望んでいるのか」
幼いながらも自分の立場と、使命を理解してる事に驚きと感心の気持ちが混じる。
「どっかのポリ公に任せるより、私といた方が安全アル! 」
そう言って笑い合う彼女たちは、身分など関係ない、ただの友達同士だった。
「でも、やっぱり顔は隠した方がいいアルな」
「この手ぬぐいだけじゃ頼りないね」
聞けば顔を隠す為に買ったお面は、この人混みで落としてしまったらしい。
ピコンと良い考えが思い浮かぶ。持っているじゃないか私は。丁度良いお面を。
「では、これを使ってください」
新井先生には申し訳ないが、ついさっき貰った、ウサギのお面を差し出す。
「良いんですか? 」
私がもちろんと頷くと、可愛い、と声をあげてそよ姫様は喜んだ。何気なく銀時さんをみると、まったく、と言うかの様に呆れながらも優しく微笑み、頭をガシガシと撫でてくれた。
「神楽、姫さんのコト頼むぞ」
「銀ちゃんも、くれぐれもなまえに手出すなヨ」
「なんで、そっちの心配なんだよ」
ため息をつく銀時さんに、冷たい視線を送る神楽ちゃん。それを笑って見つめる、そよ姫様。今日は色んな人に出会えるな、と嬉しくなる。
それと同時にふと、賑わう街に違和感を覚えた。