
4. 終わりの鐘は突然鳴る
私は夏油くんをいつから好きだったんだろう。気づいたら目で追って、少しでも会えたら嬉しくて。
でも、臆病な私は今の立場を壊すことが出来ない。なのに夏油くんが女の子からの告白を断ればホッとして、失恋した子に同情の目を向けて。
最低だ、私。
♢
いつものようお昼を食べ終えて硝子ちゃんと教室へ戻れば、珍しい光景が目に飛び込んできた。教室に入りかけた足が止まる。
最強同級生の五条くんがいた。彼は携帯もイジらず窓の外をぼーっと眺めていたが、私たちに気づくと抑揚のない声で、「よぉー」とおざなりに挨拶をした。
「うわ、なんでいるの」
「いちゃ悪いのかよ」
私の背後から、顔だけ覗かせた硝子ちゃんの軽口に五条くんの整った顔が不満げに歪む。
「五条くん、久しぶりだね」
元気だった?と硝子ちゃんとは真逆の、歓迎の言葉をかけた私に、五条くんの口元がフッと綻んだ。
ゲームセンターに四人で行ったのはもう二週間も前のこと。その翌日から、五条くんはまた任務三昧で、教室で会うのは数日ぶりだった。
「あれ、夏油くん教室にいなかった?」
先に教室に戻っているはずの夏油くんが不在。問いかけると五条くんは大きくあくびをしながら、
「あぁ、傑にもさっき会ったけど、呼び出しくらってたぜ」
と眠そうに答えた。呼び出し?誰から?
不思議に思っていれば硝子ちゃんも同じだったようで私と顔を見合わせる。
疑問を胸に抱いたまま、私は窓際にいる五条くんの隣の席へ。硝子ちゃんは、私の机の前に自身の椅子を持ってきて頬杖をついた。
「五条は行かなくていーの?また何か二人でやらかしたんでしょ」
「なんもしてねーよ。補助監督から呼び出し。昨日の任務の報告書に不備があったんだと」
「へぇ…」
半ば呆れ状態でツッコむ硝子ちゃんに対し、五条くんが心外だとばかりに反論する。最後に声を出したのは私だった。珍しいこともあるんだと目を丸くする。
いつも、お手本にしたいくらい丁寧な報告書を提出する夏油くんの書類に不備。
五条くんならまだしも。
「おい、お前今失礼なこと考えなかったか?」
ジトっと鋭く睨まれて、いやいや!と首を高速で横に振る。
すると突然、五条くんが私と硝子ちゃんを交互に見てニヤリと笑う。それは、夏油くんと共に夜蛾先生にイタズラする時の顔と同じだった。
「あのホジョカンが担当だったから、傑のやつ緊張して報告書ミスったんだぜ」
「いや、誰?」
「この前新しく来ただろ。茶髪の髪の長い女」
硝子ちゃんの鋭い指摘に、五条くんは自身の白髪を指さす。そういえば、京都校から新しい補助監督が異動して来たと、夜蛾先生が数週間前に言っていた気がする。任務で担当になったことがない為、私は未だに会ったことはない。
「その人がなに?」
その補助監督と夏油くんの結びつきが分からない。私の言葉を代弁するみたいに、硝子ちゃんが
…すごく嫌な予感。聞かない方がいいと頭で警告音がなっているのに、それよりも五条くんの言葉の先が気になってしまう。
「傑、多分あの女に惚れてるぜ」
絶対そうだ、と確信めいた言い方だった。
一気に心臓が激しく音を立てる。二人に聞こえるんじゃないかと思うほど。硝子ちゃんはまだしも、五条くんに動揺が伝わらないようスカートを握りしめた。
すき?スキ? それは私が夏油くんに抱いている感情と一緒の好き?
親友の五条くんが言うと、どうしても説得力が増してしまう。
「…夏油がそう言ったの?」
硝子ちゃんのわずかにイラついた声。彼女の質問に五条くんは、「いや?そうじゃねーけどさ」とあっけらかんに答えた。
それを聞いた硝子ちゃんの顔が意味分からんと言いたげに、さらに歪む。
「前にアイツが連絡先交換してるの見た」
「その補助監督と? てか、覗き?五条趣味わる〜」
「あんな所でやり取りしてるのが悪いんだよ。しかも、あれは傑から聞いてたっぽい」
それを聞いて、あぁ、これは五条くんの勘も間違いじゃないかもと思った。
夏油くんが連絡先を聞かれている場面に、私も幾度となく遭遇してきた。
先輩の術師から補助監督。任務で助けた一般人にまで。
目を見張るような綺麗な人や、アイドル並みに可愛い人から聞かれても、彼は上手い言い訳をして断っていた。一体、彼の連絡先をゲットできるのはどんな人なのだろう?
疑問に思った私は、一度聞いたことがある。
___夏油くんって連絡先、全然交換しないよね?
もちろん私は同級生だから連絡先は知っている。けど、それ以外の人で夏油くんが教える基準って?
ちなみに、相方の五条くんは割と聞かれたらすんなり教えてた。まぁそのあと、女の子とメールのやりとりが続くかはさておき。
私の発言に夏油くんは数回瞬きをしたあと「気になるの?」と少し冗談めかして微笑んだ。
___興味ない人から連絡くるの面倒だろ?それに私は、好みの人には自分から聞くタイプなんだ
と教えてくれた。
そんな彼との記憶が、ここぞとばかりに蘇り、心に傷をつける。夏油くんが自分から聞くってことは、そういうことだ。
好きな人には、好きな人がいた。私の恋は今この瞬間、終わりを告げたのである。
「あと、任務終わりに二人でメシ行ってるらしいぜ」
「五条、もういいから黙って」
「ちょっとトイレ…」
五条くんは、聞きたくない情報をさらに共有してくれる。私は、ふらっと立ち上がり、教室を後にした。
何も知らない無邪気な彼の、いってらーという軽快な返事と、全てを知ってる硝子ちゃんの心配そうに私を呼ぶ声が同時に聞こえてきた。