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その日はやけに早く目が覚めた。 爽やかな気分は二度寝をする気にもさせず、ベッドから出て水を飲むと たまにはこんな日もいいかなという気持ちになった。 テレビを見ながらゆっくりと朝ごはんを食べて、休みの日にこんなに早く起きるのは久しぶりだなあなんて思った。昨日は深夜勤じゃなかったからだろうか。 ふと流れてきた曲に振り向くと最近お気に入りのテレビCMだった。この声が彼のものだと思うととても不思議な感じがした。いやそう言われてみればどう聞いても彼の声なんだけれど。 あの日購入したこの曲のCDは、パソコンに取り込んだはいいもののなんだか彼の歌声をイヤホンで聞くのが耐えられなくて結局一度しか聞けてなかった。いつも歌い出し数秒で止めてしまう。自分でも馬鹿みたいだと思った。それでも、耳元で彼の声が聞こえるだけで変な気分になりそうだったのだ。 彼とは、あの日以来一週間ほど会っていなかった。彼の新聞受けに広告が溜まってるところを見ると、どこか遠征の仕事なんだろう。 スマホがメッセージを通知して、忠義から『やっぱりそっちの駅まで行くわ』というお知らせが届いた。『いいの?』と打てば『午前中にそっち方面で用事ができた』と返ってきたから『了解』と送信した。 とっくに違うCMを放送するテレビは付けっ放しにして、どうせなら早めに出かける準備をしてしまおうと立ち上がった。 今日のバイトは、深夜からだ。 # 休日の昼前だというのに、駅前は人でいっぱいだった。待ち合わせの時間まであと5分。忠義から『ちょっと遅れる』と連絡が入ったから『ゆっくりでいいよ』と返してわたしは柱にもたれかかった。 喧騒を見つめているとふと最後に会った日のことを思い出した。今思うと夢のようで、でも唇に残る感触ばかりが鮮明で苦しかった。 結局あの直後店長が出てきて、彼は何事もなかったかのようにお話をして出て行った。なぜあんなことをしたのか、ここのところそればかりを考えては胸が痛くなって 残る感覚を払拭するように唇を噛むことを繰り返している。 トントン、と肩を叩かれて振り返った。「ごめん」と片手を立てる忠義が立っていて「いいよ、こっち来てくれてありがとう」と笑った。 「ピンクやん」と私の服を指差すから「あれだけ言われれば着て来ない方が恥ずかしいよ」なんて返した。やっぱりあのスカートは履いて来れなかった。顔なんて思い浮かべて買うんじゃなかったんだ。 「行こっか」と私は柱から背中を離した。今日は忠義のお話を聞きながらお茶をする予定だった。 |