「こんばんは」
「あ、こんばんは。いつもありがとうございます」
「これお願いしますー」
「暖めますか?」
「僕をあっためてください」
「お箸一膳でよろしいですかー」
「スルーうまなりましたね、俺のおかげやなあ」

すばるさんのお弁当をレンジにいれてスイッチを押した。そういえばすばるさんってよくお弁当買って行くけど料理とかしないのかな。っていうか1人暮らしなのかな。どうなんだろう。よく考えたらわたしすばるさんのことなにも知らないかも。

「…そない見つめられたら照れるやないですか」
「あ、すいません」
「や、ええんですよええんですよ。それだけ興味持ってくれてるんでしょ」
「はあ………まあ、」
「…で、なにが聞きたいねん」
「え?」

ニヤついたすばるさんがなんかちょっとドヤってる。『なんか俺に聞きたいことあるんやろ?』とちょっと自信満々気味なのが若干うざ…癇に障る。
まあたしかに聞きたいこと、たくさんありますけど、

「あかりさんの聞きたいことなら、なんでも答えますよ」

なんだその謎の優しさ。「えーと」と言葉を繋いで視線を泳がせた。

「お仕事…ってなにされてるんですか」
「仕事?」

私の質問にピクッと眉を動かしたすばるさんの方からチッと小さな音が……
ん?ちょ 今舌打ちした?え、舌打ち、?

「あー…、まあ、なんでもええやん」
「………いきなりなんでも答えられてない」
「あ?」
「なんでもないす…」

こういうときに限ってガラ悪いところだしてくるんだから!足元ムートンのくせに!
「他にもっとあるやろ、ほら」と催促された。仕事なにしてるのって結構普通の質問だと思うんだけど。あれ、なんでもってなんでもなんじゃないの?
質問を探してると温め終了の合図が響いた。

「温めお待たせいたしました〜」
「……興味なさすぎるやろ」
「そ、んなことないですよ、」
「じゃあなんかあるやろがい」

えーっ、と。
『店長とはどんな仲なんですか?』『どうして引っ越してきたんですか?』『彼女いますか?』
聞きたいことはたくさんある。…でもなんかどれも聞き辛い。気にしすぎだとは思うけど。
あ、さっかなんか気になったんだよな………そうだ、

「お料理とかします?」
「……料理なんか…してたら毎日ここ来てへんて」
「作ってくれる人は?」
「そんなんいてません」
「意外ですね」
「あかりさんが作ってくれてもええんですよ」
「お仕事教えてくれたら」
「そうきたか」

そんなに人に言えないようなお仕事なんだろうか。そういえば結構不定休だよなあ。深夜に仕事帰りって言ってることもあれば平日のお昼に来たりもする。仕事帰りっても私服だし。髭だし。ロン毛だし。

「あかりさんは恋人とかいてるんですか」

わたし、ですか。…今ってわたしの質問タイムなんじゃないんですか。なんでも答えるとか言っときながら話そらすんですか。…なんか、悔しい。

「…秘密です」
「なんでや」
「…わたしのことなんていいじゃないですか」

早口にそう言うとあからさまに不機嫌そうに「そんなもんか」とお弁当をとった。

「………」
「……………」

いつもならそのままの流れで出て行くのに、今日のすばるさんは目線を伏せた立ち止まっていた。
…気まずい。気まずすぎる。

「あの、」
「そんなこと、言わんといてや、」
「え、」
「さみしいやんか。俺、アンタの名前しか…知らん」

無表情にそう言って「…まあ、また明日」と自動ドアに向かう。
…待って。何か言わなきゃ。待って、

「あの、!」

すばるさんが振り向く。その眉間には皺が寄っていて、やっぱりちょっと怖かった。

「いない です…。わたし、いま、彼氏…」

最後の方は消え入りそうな音量で、果たしてすばるさんの耳に届いたかは定かではなかった。でも「お、おお、ほんまか」と嬉しそうに笑ったから、問題なく伝わったんだと思う。




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秘密主義なわけじゃないです。お互い。
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ミガッテ