「昨日駅で見ましたよ」
「え、え?」
急に聞き慣れた声が聞こえてびっくりした。思わず間抜けな声が出る。目の前のお客さんがすばるさんだなんて思ってなかったからだ。
「なんや、ぼーっとして」
だって今は昼間である。確かに今日は日曜日だけど、すばるさんがお昼に来るなんてめちゃくちゃ珍しい。
「あ、すいません、すばるさんじゃないと思って…」
「おいおい、そんなんでほんまに大丈夫なんか」
「ヒナどこやねん。1人じゃ心配やわ」と奥を覗く。
今来てるってことは、今夜はもう来ないのかな。
「…あれ、なんでしたっけ」
「あ?…あ、せやせや。駅で見ました、昨日。」
「わたしですか?」
「おん。昼頃、やったかな。ちょっと眠そうな顔して。住んでるのこの辺なんですね。」
駅って、たぶん最寄駅だよな。そうか、そういえばすばるさんもこの辺に住んでるんだっけ。どの辺だろう。というか、声かけてくれればよかったのに。コンビニ以外ですばるさんにとか、普通に会いたいぞ。
「服、えらい可愛かったやんか」
「え?あ、そうですかね…」
ニヤニヤした顔ですばるさんが「なんや、あれやな」と口ごもる。
「…あんな格好でデートとか来られたら、たまらんもんがあるなあ」
「…はあ、」
「………」
いつも通りちょっと変なことを言うすばるさんに適当な返事をすると、すばるさんは突然ニヤつきを崩して眉間に皺を寄せた。
え、なに、何でいきなりそんな呆れたっていうか、悲しそうな顔するの。
「…わからん?」
「…?」
「デートのお誘いやんか」
「え…えっ!」
「まあ、また、時間がある時にでも、ふたりでごはんとか…どうです?」
「あ、はい…ぜひ…」
なんだか小っ恥ずかしくて俯くと「あ!」とすばるさんが大きな声を出した。
「ど、どうしました」
「もしかして、昨日のもデートやったとか…アレ…言わんやろな…?」
ものすごい形相ですばるさんが睨むから思わずたじろぎながら「違います違います…友達です、ほんと」と小さな声で返すのが精いっぱいだった。
「友達って、男か」
「お んなのこですよ、普通に 考えて…」
「ほんまやろな」
「ほんとですって」
「…ほんなら、ええわ」と言ってすばるさんは白い袋を手に取った。怖かった…今の本当のこと言ってたら殺されてたんじゃないのわたし…
「…今日は、夜はいらっしゃらないんですか?」
「お?…おん、夜はな、」
あ、お仕事なのかもしれない。無表情なすばるさんに「頑張ってくださいね」と返すと少し険しい顔になって「…おん、」と返ってきた。
「……あかり、」
いきなり低いトーンで呼び捨てにされたから驚いた。すばるさんは俯きがちに言葉を選んでいた。
「…デート、絶対やぞ」
上目づかいにそう言う。
なんつー視線だ。真っ直ぐすぎて、強すぎて、睨み殺されそうな上目遣いだな。…そんなに見なくても、拒んだりしないのに。
すばるさんこそ、忘れないでください よ。なんて言葉は、足早に去って行く彼にはかけられなかった。
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