バイトが楽しいって、すっごく幸せなことかもしれない。もちろん働いてるわけだから辛い事もあるし、お客さんに嫌な事言われる事もあるし、時給が高くないのにも不満はある。
それでも、店長が優しくて、環境も良くて、そんなに忙しくなくて、楽しんでお金もらえるって、素敵。
だからこうやってバイトも大学も休みの日は、はっきり言って暇だ。

スマホがテーブルの上で振動する。通知を開くと忠義からのメッセージが表示された。
『今日は無理』
『バイトの後デートやし』
と私の誘いに対するお断りの内容だった。リア充め、羨ましい。

「…いーい天気だなー」

寝転びながら窓の外を見つめた。綺麗な青空に雲が流れている。遊ぶ友達も誰も捕まらなかったし。何しよう。
……よし、せっかくだし出掛けよう。久しぶりに散歩でもしたい気分だ。

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行く当てもなく歩いて、思いつきで近くのショッピングモールに入ってみた。可愛いと思った服や小物をお財布と相談しながらたくさん買った。最近はシフトも結構入ってるからそれなりに潤っている。洋服を選ぶときに何となくすばるさんの顔を思い出したりなんかして。…って、結構キてるのかもしれない、わたし。
そろそろ満足かなーと思った頃、CDショップが目に入って足を止めた。そういえば今会員割り引きやってるんだっけ。
沢山並ぶ棚の中から新作の列を見つけ出して見上げた。あ、この歌。最近よく聞く歌だ。そういえば最近デビューしたばっかりのバンドの曲なんだっけ。

(結構好みな曲風だったよなー)

と手にとって見た。"eight待望のセカンドシングル"と印刷された帯の掛けられたジャケットを見て、私は唖然とした。

「…は?」

え、待って、なにこれ、待って。…ドッキリ?
今自分の見ている光景が信じられなくて、混乱に混乱を重ねて頭の中はパニック状態に陥った。クルクルと無駄にCDケースを回してみる。普通だ。普通に有名なレコード会社から出てる、列記としたミュージックCDだ。
……でも、だってそんな。
『話題沸騰中のCMソング!!』という吹き出しの貼られた棚に陳列されている他のCDも見て、もう一度自分の手元にある物をまじまじと見た。何度見ても、間違いない。そっくりさんという可能性も捨てきれないけど、ポップに可愛い文字で『Vo.SUBARU』と書かれているから、私はそのCDを持ってレジまで向かった。


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まだ落ち着かない頭でマンションまで歩いた。伯父さんが管理人をしているこのマンションはここらではちょっと高級めで、完全にコネで入居させてもらっている。
…まだちょっと、信じられない。あのすばるさんが、ミュージシャン、だったなんて。でもそう考えると、不定休や労働時間の定まらない事にも合点がいく。でも、

(…なんで、私に知られたくなかったんだろう)

あんな立派なお仕事なら教えてくれたっていいじゃないか。少し寂しい気持ちを抱えながら私はマンションのセキュリティーを解除した。

エレベーターを待つ間も頭の中はすばるさんの事でいっぱいで。確かめるようにCDショップの袋に触れるのももう何度目か分からない。



「………」



悶々としていると隣に煙草の匂いのする男の人が立ったのを感じて、少しぎくりとした。知らない男の人と二人きりでエレベーター乗るの、ちょっとやだな。
ちらりと横目でその人を確認。華奢で小柄な体つきで、ニット帽を被っていて…あれ、なんかこの雰囲気には見覚えが…

「…すばる、さん?」

私の言葉に振り向いた彼は、見るなり元から大きな目を更に大きく見開いた。

「え、おま……なんで?」

お互い顔を見合わせて、絶句している。今日はとことん混乱する日なんだなあ、とどこかで考えた。


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二人でエレベーターに乗り込んだ私たちは押そうとしたボタンが同じ事に気づいて顔を見合わせた。え、あれ、もしかしなくても、同じ階…?
エレベーターが上がって行く間も無言のまま、今までで一番気まずい沈黙が流れる。言いたい事も聞きたい事も沢山ある。でも今はお互いの部屋を確認する事が最優先だ。


「…ほんまに、そこなんか」


私が自分の部屋の前で立ち止まるとすばるさんが口を開いた。振り向くと何とも言えない表情で部屋番号を見つめている。

「ここ、です」

恐る恐るそう答えるとすばるさんは左側を指さして小さく「隣の、となり」と吐きだした。

「…え?」

立ちつくす私をおいてすばるさんは指さした2つ向こうのドアの前に立つ。ポケットから鍵を取り出して差し込み、ガチャリと音を立てたドアを開いて見せた。
…なんと、いう事だ。私は何も言えずただただ苦笑いするすばるさんと見つめあった。






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衝撃事実発覚×2

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ミガッテ