「そらまあ、また、すごいな…」

朝のコンビニに店長の声が響いた。お客さんラッシュの時間も過ぎて、ただいま絶賛暇だ。
昨日あった出来事を愚痴の勢いで『聞いてくださいよー!』と店長に話すと、私の迫力に押されたのか店長は少したじろぎながら驚いていた。

「アイツこっち来て一ヶ月やろ、そんだけの間鉢合わせへんかったことが逆にすごいな」
「ほんとそうですよね…」

空き部屋だった隣の隣に人が入ったのは知っていた。一応表札も入っていて、名前は『渋谷』さん。知っていた。…でも、すばるさんの苗字なんて知らなかったんだもん。

「で、話はしたんか」
「…なんのですか」
「仕事のことやろ」

そうだ。昨日は結局部屋の前で色々お話をして(流石にいきなり部屋にあげることもあがることもできなかった)とりあえずすばるさんのお仕事の話はした。

「…店長は知ってらしたんですよね」
「そらまあ、な」
「どうして教えてくれなかったんですか」
「すばるが言わんもんなんで俺が言えんねん」
「…店長にもデリカシーとかあったんだ…」
「どついたろか」

脅しの言葉と共に店長に頭をはたかれた。手が早い手が。…立派なパワハラだ!

「すばるの気持ちも汲み取ったれや」

言われなくても、わかってる。

『あれやんか、芸能人やとか知ったら、離れて行かれるかと…』
『ていうかそもそも知られてへんかったことがまあ、割とショックやったというか…』
『そういうのは好き嫌いあるやんか、音楽とか…』

少し罰の悪そうに話すすばるさんを思い出して目を閉じた。なんだろう、これ…。胸のあたりがぎゅーっとする。
深く息をつくとドアのベルが鳴り響いた。

「いらっしゃいませー。あ、」
「いらっしゃいま、せ…」

噂をすれば、だ。
すばるさんが店に入ってくるなり、驚いたような顔で私を見た。

「えらいはやいな。おはよーさん」
「お、おん」
「……はようごさいます」

すばるさんがレジの前に立ち「8番。」と煙草の棚を指さした。
私と店長を交互に見て、ニヤリと笑い「聞いた?」と店長に問うた。

「聞いた」
「はやいな」
「あかりが嬉しそうに朝イチで言うてきた」
「なっ、店長!」
「ほんまのことやんけ」
「なんや、お前、隠さんくてええやんか。すばさん嬉しいで」

ご機嫌そうに笑ってすばるさんは年齢確認にタッチする。店長はいつからすばるさん側についたんですか。
「ヒナ、俺は聞いてへんぞ、」とすばるさんが店長に少し怖い顔をして財布を取り出した。「お前が朝来るなんて思てへんかった」と店長が笑う。何の話だろう。気になったけど黙ってレジを済ませた。
すばるさんがニヤニヤしながらこちらを見つめてるのに気が付いて、今日はなんだかコロコロ表情が変わるなあなんて。

「そういやあかり、」
「なんでしょう」
「今朝、眠そうな顔してゴミ出してたやんか」
「え!」
「あれすっぴんやったやろ。髪もぐしゃぐしゃで」
「は、えっなん、…」
「あんなパジャマみたいな格好で外出たらアカン。ガーンいうて襲われてまうやろ」

すばるさんの言葉に「よう見てるなあ」店長も笑う。よくわからない擬音はおいといて、その発言の内容は恥ずかしすぎる。ゴミ置き場は私の部屋のベランダからも見えるわけで。うわあ、すばるさんベランダから見てたのか。全くもう、これから迂闊に変な格好で外に出れないじゃないか。

「ご忠告どうもありがとうございます!」

熱くなった顔に気づかないふりをしてすばるさんに強めにソフトケースを押し付けた。
声に出して笑ったすばるさんは店を出て行こうとして、ゆっくり振り返った。

「せや、もういっこ忠告しといたるわ」

その顔は死ぬほど楽しそうだ。

「下着は部屋の中に干した方がええで」
「!?」
「赤のフリルなんて、死ぬほど捗ったやんか」

…なにがだ!
すばるさんの言葉に店長がガハハと笑って、勝ち誇ったような笑顔ですばるさんは退店していった。








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やっぱりあの人変態だ!
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ミガッテ