喉が痛い。そして少し肌寒い。 そんな嫌な予感に意識が冴える。重い瞼を開けると目の前に肌色が広がっていてびっくりした。 …そうか、そうだった。 さらりとしたシーツの感触が裸であることを教えてくれて、さっきの寒さはこれかと納得した。 頭の後ろで緩やかに何かが動いていて心地いい。ゆっくりと顔を上げる。目を細めて私の髪を梳く彼と目があった。 「よお寝とったなあ」 かすれ気味の声が頭に響く。普段より優しい口調に胸が高鳴って震えた。陽の光を受けて白いシーツ上裸で横たわる…って、まるでメンズエステのCMだな。 「おはようございます」と言うとなぜか鼻で笑われた。 「別人みたいやな」 「え?」 髪を撫でていた手がするりと腰に落ちて引き寄せる。動きにいやらしさがないだけ なんだかくすぐったい。 「昨日あんな乱れとったやつが、しおらしくまあ“おはようございます”って」 めっちゃおもろいで。 声に出して笑う。対照的に私はひどく赤面した。一瞬で映像がフラッシュバックして言葉に詰まる。そんなの何も言い返せない。 「そんなに良かったんかいな」 自信たっぷりに言ってウエストを撫でるから、抗議の意味も含めて少し体を捩った。 痛い。腰が痛い。…というか重い。 「優しくするって、言ったよね」 拗ねるような声で言うと「優しくしたったやんか!」と小突かれたから反射的に目を瞑った。あれで優しいんだったら、彼の言う乱暴というのがどんなものなのか分かったもんじゃない。 目を閉じたまま少し力を抜いた。倦怠感がすごい。 正直昨晩は体力勝負な彼を感じるのに必死で、自分を抑えるとか、猫をかぶるとか、それどころではなかった。しかしそんな私を見て楽しんでる彼に煽られたのは言うまでもない。 意識がどこかふわふわしている。なんだか不思議でたまらない。どうして私は彼とこうしているんだろう。これだから大人は怖い。私はいつそんな年頃になってしまったのだろうか。再び眠りに落ちそうなところをぐっとこらえて目を開けた。 …微睡んでる場合なんかじゃなかった。二度とないかもしれないこんな光景を、1秒でも長く見ていなければならないという使命が私にはあるんだった。 「眠いんか」そう覗き込む彼に「ううん」と小さく答えて口角を上げる。 確かに彼はそこにいるのに、確かに私は昨晩彼と熱を伝えあったのに、“今まで通りの日常が”もうすぐそこに迫ってきてる気配を感じて怖くなる。 …だからきちんと焼き付けておかなければならない。 偶然起こってしまった、ずっと好きだった人とのこの光景を この目に。 back |