そして次の日、約束通りエドとアルに自分の事を話すために家に来てもらった。
細かい荷物を整理していると、玄関からコンコンとノックする音が聞こえた。
ガチャッとドアを開けるとエドとアルが立っていた。
『わざわざゴメンね、来てもらっちゃって。まだ少し散らかってるけどどうぞ』
「「お邪魔します」」
『この後、タッカー氏の家に行くんでしょ?』
「ああ。ニーナっていう女の子と遊ぶ約束もしてるし」
『んじゃ、早速話すね』
名前はお茶の準備をしながら2人に話しかけ、全てを話した。
「……嘘だろ」
「信じられない……あ、だから僕たちの事知ってたんですね」
『そういうこと』
名前は2人の反応を見ながらズズッと音を立ててお茶を飲んだ。
「真理を見たって事は名前も……」
『人体練成なんてしてない』
エドが真理=人体練成と思い、名前に人体練成したのか、と言う前に名前が即座に答えた。
「んじゃなんで……」
『分からない。勝手に連れて来られたの』
「「は?勝手に?」」
予想外な答えにエドとアルは声が重なった。
『あら、息ピッタリ』
「だろ?ってそうじゃなくて!」
エドが突っ込んでくれた。やりおる。
『し・か・も!勝手に連れて来たくせに通行料まで必要だって言うの、ホント頭来るでしょ?嫌だって言っても勝手に取られたし』
思い出したらイライラしてきた!と少し苛立ちを見せる名前だった。
「通行料って……見た感じどこも取られてなさそうだけど」
『コレよ』
そう言って名前は自分の目を指差した。
「「目?」」
『そう、虹彩。元々ブラウンだったんだけど、気付いたらグレーになってたの』
「そんな通行料ってありかよ……」
『生活に支障はないからまだいいけど、でも今度会った時はボッコボコにするんだ〜』
ニコニコしながらグッと拳を握っている名前を見た2人は“名前は怒らせたら絶対怖いパターン”と思った。
「あ!僕たち、元の姿に戻れるんですか?名前さん全部知っているんでしょ?」
アルは突然思い出したように“あ!”と声をあげ、テーブルから身を乗り出して名前に聞いた。
『……知ってどうするの?』
「結果がどうあれ、僕たちの生きる希望にしたい」
『でもその結果が本当にその通りになるかは分からない。それでも聞く覚悟はあるの?』
「ああ」
「はい」
エドとアルは迷いのない目をしていた。
『言い出したら聞かないもんね、2人は。んじゃ教えてあげる』
名前は困ったように笑いながらため息を吐いた。
『2人は……元に戻れるよ』
「本当か!?」
「兄さんやったね!」
緊張して強張っていた2人の顔が一気に笑顔に変わった。
『元には戻れるけど、勿論失う物も出てくる。時には嬉しい事や困難が待ち構えている。でも迷わず進み続けなさい』
「分かった。ありがとう」
『なるべく協力できる事はするから』
「ありがとう」
『それじゃこの話は終わり!ニーナちゃん待ってるんでしょ?早く行ってあげて』
名前は話を終わらせると同時に立ち上がり、2人の背中をポンと叩いた。
「あー……1つ聞いてもいいか?」
『ん?』
「名前はさ、元の世界に戻りたいって思わねーの?」
エドが玄関に向かいながら名前に聞いた。
『うーん、どっちにしろ私生きてるか分からないし、戻る方法も分からない。戻りたい気持ちが強ければ、軍にも入らないし錬金術師にもなってない。だから……私はこの世界で生きようって決めたんだ』
「……そっか。なんかごめん」
『何で謝るの?私は結構この世界好きよ?』
名前は壁に寄りかかり、腕を組みながら笑って答えた。
『あ、最後にもう1つ。ニーナちゃんと楽しい思い出作ってあげてね』
「……?うん、分かったよ」
エドは特に何も考えずに返答した。
“お邪魔しました”と言って2人は名前の家を後にした。
「なぁ、アル」
「何?」
「名前ってスゲーよな。異世界に飛ばされて通行料も奪われてるのに、自分が戻る事より皆の幸せを願ってるって……あんな決意は中々出来ない」
「うん。でも僕には少し寂しそうな目をしてたようにも見えたよ」
「オレもだ。だからあれ以上聞けなかった」
「僕たちも名前さんに協力できる事はしてあげようね」
「勿論だ」
そして2人はタッカーの家に向かった。それがもうすぐ最後になるとは知らずに……
次の日、名前は正式に東方司令部に就任となり、皆に挨拶を終えた直後だった。
リリリンと電話が鳴り、ホークアイが電話を取ると内容を聞いて顔をしかめ「分かったわ」と言って電話を切った。
「どうした?」
「エドワード君からです。タッカー氏が娘と犬を使って合成獣を錬成したそうです」
「何だと?」
『!!』
まさかこんなに早くだったとは……と、名前も動揺を隠せないでいた。
「名字少佐、就任直後申し訳ないが付いて来たまえ。タッカー氏の家に行く」
『分りました』
そう言ってホークアイも加え、3人でタッカーの家に行く事になった。
そして司令部を出ると、雨に打たれながら階段に座っているエルリック兄弟がいた。
「いつまでそうやってへこんでいる気だね」
「……うるさいよ」
「軍の狗よ悪魔よとののしられても、その特権をフルに使って元の身体に戻ると決めたのは君自身だ。これしきの事で立ち止まってるヒマがあるのか?」
「これしきの……かよ。ああそうだ、狗だ悪魔だとののしられてもアルと2人、元の身体に戻ってやるさ」
マスタングがエドに声をかけるが、お互い目を合わせず淡々と言い合っていた。
「だけどなオレたちは悪魔でも、ましてや神でもない。人間なんだよ!たった1人の女の子さえ助けてやれない!ちっぽけな人間だ……!!」
名前はマスタングに続き、エドの横を通ろうとした瞬間、エドに手を掴まれた。
「アンタ……こうなる事を知ってたのか」
『……だからあの時忠告したじゃない。“ニーナちゃんと楽しい思い出作ってあげてね”って』
名前はこうなるであろうと予想はしていたため、冷静に答えた。
「あんな言葉で分かるわけないだろ!!なんであの時言ってくれなかったんだ!!」
『どういう意味か聞き返さなかった貴方が悪いんじゃない?』
「ふざけるな!!!」
「兄さん!!」
エドは名前が表情も崩さず淡々と述べるのが余計に気に食わず、名前の胸ぐらを掴んだ。それを見たアルはさすがにマズイと思い、エドの肩を掴んだ。
『……ガキね』
「っ!!」
階段差で名前はエドに見下ろすように言うと、エドは頭に血が上り、名前を殴ろうとした。
しかし、名前はしっかり体術も学んでいたので簡単に避け、向かって来た手を取り、エドを地面に投げ飛ばした。
『頭にきたらすぐ殴ろうとする。ホント、ガキね。帰ってしっかり頭を冷やしなさい』
名前はコートの襟を正し、そう言い捨てると急いでマスタングの元へ行った。
「んだよ、あの女……しかも強ぇーし。腹立つ……」
エドは地面に倒れたままボソッと呟いた。
「大丈夫かね?」
『お待たせしてすみません。おかげでビショビショですけどね……』
眉毛を八の字にしながら名前は困ったように笑った。
「こうなる事を知っていたのかね」
『……はい。伝えたんですが認識の違いというか』
「真実を知ってもそうなるとは限らない。気持ちを構える事は出来るが、いつ起こるか分からないのは逆に恐怖だ」
『大佐……。なんか、ありがとうございます』
マスタングがフォローしてくれた事に嬉しく、名前は自然と笑みをこぼした。
「私は思った事を言っただけだよ」
『私には嬉しいお言葉です』
「なら良かったよ」
名前は横目でチラッとマスタングを見ると目が合い、マスタングがニコッと微笑んだ。
その笑顔に名前はドキッとした。
そして車はタッカーの家に着いたが、すでに何者かに殺されていた。
そう傷の男に。
とりあえず今日はどうする事も出来ない為、一旦東方司令部に戻る事になった。そして明日、改めて検証を行うことになった。
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16.03.05
えーと、絡み少なかったですね……
ちょっとエドに厳しいヒロイン、というのがちょっと書きたくて。少しツンツンさせました。エドが好きな方はすみません。
あくまで大佐夢なので、大佐以外は基本ツンツンかも。←