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「マスタング大佐」
「や、これはハクロ将軍」
「例の傷の男の件だ。たった1人の人間にここまでかき回され、しかもかなりの人数を動員しているにもかかわらず未だに……『あれ?ハクロ将軍じゃないですか』

「!!!」

ハクロは声をかけられた方を向くと、名前の顔を見て大きく目を見開いた。

「きっ……君はあの時の!?何故ここにいる!?」
『何故って軍人だからですけど?』
「んじゃ何故あの時名乗らなかった!」
『あの時はプライベートだったので、軍人ではなかったからです』
「貴様……私を騙したな……」
『騙すも何も、助けてあげたんですからむしろ感謝してもらえますか?ところで、マスタング大佐に何を話してたんですか?まさか、約束忘れたなんて言いませんよね?』

名前はニコっと黒い笑みを浮かべながら言うと、ハクロは青ざめた表情に変わった。

「チッ……マスタング大佐、とにかく傷の男の件は早々に頼むぞ」

そう言い捨てて、慌ててハクロは戻って行った。
その様子を見ていたマスタング、ホークアイ、ハボックはポカーンとしていた。

「名前、一体何をしたのだね」

マスタングは、現状把握ができず少し困ったように名前に聞いた。

『青の団の事件ありましたよね?あの時にちょっと貸しをしていたんです』
「貸し?」
『助けてあげる代わりに大佐には一切悪口を言わない、という約束をしたんです。でも案の定破られましたけど』
「何故そんな事を……」
『だって大佐頑張ってるのに、若くして大佐の地位が気に食わないからって文句言われるのが許せなくて』

その言葉を聞いてハボックとホークアイは“大佐想いだな”と心の中で思っていた。
思ってもいなかった返答にマスタングは自然と笑みをこぼし、名前の頭をポンポンと撫でた。

「ありがとう」
『部下として上司を立てるのは当たり前の事です!』
「……そうかい」

ガッツポーズをして言い切る名前に対して、うなだれた大佐を見てハボックとホークアイはクスッと静かに笑った。




執務室に移動し、傷の男の件について話し終えると、ハボックとホークアイがそれぞれ仕事に戻るため、執務室を出て行った。名前も出ようとドアノブに手をかけた際、大佐に呼び止められた。

「そういえば昨日ヒューズから電話があってね」
『!!』

まさか、聞いてしまった!?

「中央も忙しいから名前を貸して欲しいと言っていた。何故言わなかった?他に何か理由があったのか?」
『……ヒ……ヒューズさんの手伝いをしに行くと言ったら即答で断られると思ったので……』
「はぁ……そんな事か。まぁ、こっちも傷の男の件でバタバタしているから行って欲しくないが、今回は仕方ない。それに……」
『?』
「ヒューズの様子がおかしかったんだ。あっちにいる間だけでもヒューズの事を頼む」
『っ……』

やっぱり大佐の察し力は凄い。
それに、ヒューズさんともう二度と会えないかもしれない、なんて言えない。

「今回の件で怒鳴った事は謝ろうと思ってね。すまなかった」

マスタングは眉を八の字にしながら、苦笑いしていた。
その目はとても優しい眼差しだった。

もしヒューズさんの命を救えなかったら……きっと大佐はその優しい目をもう私にしてくれないだろう。
そう思うと、私は胸が痛くなった。

そんな縁起の悪い事を考えるのはやめよう、と名前は頭をフルフルと振った。

「どうかしたか?」
『あ、いえ……。私がちゃんと言わなかったのが悪かったです』
「私のことがそんなに頼りないかね?」

マスタングは名前の表情を見て、自分が信頼されていないと思ったようだ。

『違います!そういう意味では……なくて……』

マスタングが寂しそうな顔をしているのを見て、名前は慌てて弁解しようとしたが、突然ポロっと涙が落ちた。

「なっ!?本当にすまない。君を困らせるつもりはなかったんだ……」
『あれ……?なんででしょう……突然すみません』

マスタングは自分のせいだと思い込み、慌てて謝り、名前の頭を撫でた。
名前自身も突然涙が出た事に驚いていた。涙を拭うが、拭うと同時に次から次へとポロポロと涙がこぼれ落ちていった。

『すみません……』

それを見たマスタングは思わず名前を抱きしめた。

『た、大佐!?』
「私じゃ頼りないかもしれないが、私は君の力になりたい。1人で全部抱え込むな。私を、周りをもっと頼りたまえ」

そう言うとマスタングは更に強く抱きしめた。

そうか、この涙は大佐の優しさにだ。

ヒューズさんを救えなかったらきっと一生恨まれる。ヒューズさんが殺される事を知っていたなんて知られたら、きっと軽蔑される。

もうこんな優しくして貰えなくなると思うと辛いんだ……

だからそんなに優しくして欲しくない……優しくされた分、辛くなる。

お願いだから、これ以上優しくしないで……

もう私に構わないで欲しい……


『大佐、私大丈夫です。どうしてもの時は相談しますから。ありがとうございます』

理由が分かると、先ほどの涙が嘘のようにピタッと止まった。
名前は微笑み、体を引き離すようにマスタングの胸をトンっと押した。

「名前!」

そしてそのまま執務室を出て行った。



私、ちゃんと笑えてたよね?



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16.05.21

少し大佐夢らしくなったような……?