04

部屋に紅茶のいい香りが広がっている。

「どうぞ」
『ありがとうございます』

暖かい紅茶が名前の冷えた身体に染み渡っていった。

「さっそくだが、聞かせてもらえるか?」
『……信じていただけるか分かりませんが、私が理解している範囲でお話します』

名前は持っていたコップを置き、姿勢を正してハミルトンに目を向けた。








現実での事故、異世界から来た事、真理を見た事、鋼の錬金術師という漫画があり、その世界にやってきたという事、名前は全てを話した。

「……鋼?誰だそれ?……色々信じられないが、今名前はここに存在するのだから、信じるしかないな」

ハミルトンは複雑そうな顔をして名前を見た。
完全に信じてもらえてはいないが、少しでも理解してもらえた事に名前はホッとした。

『……ありがとうございます。鋼というのは近々分かると思います。でもこの事はやはり上の方に報告されますか?』
「……して欲しいのか?」
『いえ……出来ればしないでいただきたいです……多分、話をしたら私は勿論、ハミルトンさんまで命を奪われるかもしれません』
「命を奪われる?」
『今はまだ……話せませんが、いつか必ずお話します』
「ふーん……まぁ、俺はまだ死にたくないから言わないでおくよ。話した所で色々面倒な事になるのは御免だし」
『ありがとうございます』
「他にも色々聞きたい事あるけど、とりあえずお腹減らないか?」

そう言われればお腹が空いてたかも。
色々ありすぎてお腹が減ってるという事を忘れていた。時計を見ると21時を過ぎていた。

『お腹、確かに減りましたね。色々ありすぎて減ってる事忘れてました』
「だよな、適当に家にある物でいいか?」
『あ、私でよければ何かお作りします!』
「大丈夫だ。1人暮らしナメんなよ?名前はゆっくりしてろ」

そう言ってハミルトンはキッチンへと向かった。



そして、ハミルトンが料理を作り出して30分程経った頃……

『す……すごい』

男性の1人暮らしにしては凄い出来栄えの料理だった。

「だろ?ほら、冷めないうちに食べるぞ」
『はい、いただきます』
「お祈りか?それ」
『あ、これですか?これは私の国では食べる前に、作って下さった方や食べ物への感謝などの意味を込めて手を合わせるんです』

名前が手を合わせて食事をしようとしていた姿を見てハミルトンは不思議に思い、理由を聞くと「へぇ〜」と関心していた。

『ん!美味しいです!』
「なら良かった」
『男性でこんなに料理出来る人、中々いないですよ』
「そうか?これが当たり前だと思ってた」
『将来の奥さん、幸せ者ですね』
「出来ればの話だけどな」
『私が言うのもなんですが、ハミルトンさんならすぐだと思いますけど』

イケメンだし、優しいし。

「軍にいるとなー……中々出会いもないし、出来たとしても異動もあって会えないだので面倒だし、今は1人でいいかなーって思うんだわ」
『失礼ですが、ハミルトンさんはおいくつなんですか?』
「28」
『え!!』
「なんだよその反応、お前こそいくつなんだよ」
『ピチピチの23歳です』
「は?」
『なんですかその反応』
「 お前も同じような反応だったろ」

他愛もない会話をしているうちに、いつの間にかお皿が空っぽになっていた。

『本当に美味しかったです。ごちそうさまでした』
「終わりもそれやるんだ?」
『そうです。これも感謝の意味を込めての挨拶なんです』
「へぇ、律儀なんだな」
『あ、あのハミルトンさん、1つお願いがあります』
「ん?」
『えっと……今日だけでいいので泊めていただけませんか?明日はなんとかしますので……』

名前は申し訳なさそうに言った。

「そのつもりでいたけど。明日はなんとかするって、行く所もないだろ。土地勘もないし、お金だってないだろ」
『明日この辺で仕事探せばなんとかなるかなと……』
「馬鹿か!この辺は治安だって悪いんだ、お前なんかすぐいいようにされるぞ」

女性なんかがウロウロしていたらあっという間に連れてかれるぞ、とハミルトンは付け加えた。

『で……でも……』
「仕事と住居が見つかるまで面倒見てやるから安心しろ。最初からそのつもりで連れてきたんだ」
『そこまで迷惑をかけるわけには!』
「今のお前に言われても説得力ないぞ」
『う……。どうしてこんな見知らぬ私に良くしてくださるんですか……』
「んー……勘?」
『また勘ですか……』
「それより、今日は疲れただろ。先にお風呂入ってこいよ」
『いえ!先に入るのは申し訳ないです。そして、作っていただいたので食器くらい洗わせて下さい』
「今日は本当にいいから休め」
『う……すみません。ではお言葉に甘えてお風呂お借りします……』
「おう」

そんなこんなで、しばらくハミルトンの家にお世話になることになった。

見知らぬ私をこんなにも良くしてくれて、本当に感謝しかない。いつか必ず恩返しをしようと改めて決意した。
出会えたのがハミルトンさんじゃなかったら、私はどうなっていただろうかと想像すると身震いした。
私はとても運が良かったのだな…と心の中で改めてハミルトンに感謝をした。

名前はそんな事を考えてながらバスルームに入ると、鏡に写った自分が目に入った。

『!!!!!』

名前はその写った自分の顔を見て驚いていた。

『め……目が……目の色が違う……』

元々名前の目の色はブラウンだった。しかし目の前に写っている自分の目はグレーだった。

『もしかして、これが通行料?』

そう、あの時真理は”不自由させない程度の物を貰う”と言っていた。
確かに目の色が違うだけなら不自由ない。そして身体はどこも異常はない。

私は何の為に連れて来られたのか、そんな事を考えながら名前は身体を洗い流した。

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16.02.07
ハミルトンの料理は想像にお任せします。

そして通行料は虹彩ということで。
そんなのあり?というツッコミは心の中で……


22.03.22 加筆修正