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「先生…なぜだかいきなりヒーロー協会に呼び出されたので、ちょっと行ってきます」

ジェノスくんの携帯が鳴り、それに応答するために部屋から出たジェノスくんが戻ってきて一言。…一言?まぁいいや。
何故だかって理由も言わずに呼び出すとか、ヒーロー協会というしっかりとした名前のくせに結構雑だよね。
でもちゃんと行くジェノスくん真面目だよね、偉い。

「おう、クビだったりしてな、ハハ」

「アンタさらっと何て事を」

サイタマの失礼な言葉を流してか、そのまま一礼して部屋から出ていくジェノスくん。
とりあえずいってらっしゃーいとだけ声を掛けておいた。



さーてと、ジェノスくんが居なくなったからやることが無くなった。
(やっていたこと:ジェノスくんの観察による目の保養)
このままジェノスくんが戻ってくるまで何しておこうかと、点きっぱなしのテレビを眺めながら考えていると「そういえば、」と思い当たる。

「サイタマいつからその…寂しくなったの?」

ストレートにハゲと表現したら傷付くかもしれないと考え、頭を指しながらそう言ったらジトリと見られた。
せっかく気を遣ってやったのにその反応は何だよー。
心の中でこっそりブーイングを出しておいた。口に出さないだけ偉いぞ私。

「いつだったかな…気付いたら、かな」

「頭薄くなっていったって自覚も無かったの?」

「そんなこと気にするほど余裕も無かったなー」

寝転がりながらポリポリと腹を掻いている。相変わらず自分の事も適当だなぁ。
でも前に助けてもらった時は普通に髪あったよね…。
とりあえずゲラゲラ笑い飛ばしておこう。

「髪が無くなるのに気付かないとかバッカじゃねーの!?」

「うっるせえな!!」

よし満足。
サイタマがなんかブツブツ言ってるけど気にしない。
えーっと、あれから2年くらい経つのかな…そういえばその時に毎日トレーニングしてるとか聞いた気がする。
確かにあの頃よりとても良い体になってた。これで頭に髪さえあれば完璧だったんじゃないかな。

「でも私はそんな完璧じゃないサイタマが好きだよ」

「どんな流れだよなんか疲れたわ」

自分の家なのに疲れを感じるって大変だなぁ、なんて思っていると大きな溜め息をつかれた。
幸せ逃げるよ。その逃げた幸せは私が捕まえておこう。


「そういうお前はどうなんだよ最近」

「見ての通り薄くなってなどないはずですが」

「頭の話じゃねーよ」

今の流れは完璧に頭の話だったけどまぁいい。
でも何の話か分からなくて首を傾げる。
素直に近況の話だとしても、それはもう初日の、それこそサイタマの家に来るまでの道で大体話し合った。

「例の"体質"、何か変わったの?」




…………ああ。
なるほど、それか。

そうか。


「残念ながら、かなぁ…」

「ふーん」

ご覧下さい自分から聞いておいてこの反応。
…でも私はサイタマのこの感じにとても救われている。私があまり聞かれたくないというのを分かっているから、聞いた後の干渉はしない。
まぁ昨日の怪人の件で変化が無いってのが何となく分かっていただけかもしれないけど。
もしかしたらジェノスくんが居ないときに聞いてきたのも、サイタマなりの優しさなのかもしれない。関係無いかもしれない。



ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ…


『ヒーロー協会からお知らせします』



なんてサイタマと話していると、空間を裂くように突如警報が鳴り響いた。
何だ何だと意識を警報に向ける。

『緊急避難警報!災害レベル竜!
やばいので逃げてください!巨大隕石落下まであと21分!
専門家の話ではZ市は丸ごと消滅するとの事!
可能な限り急いで遠くまで逃げて下さい!
繰り返します!……』



「…隕石か」

「…すごいね、これ小学生の時によくあー明日隕石でも落ちて学校無くなってくれないかなーってよく呟いてた状況だよね」

私が子供の時に来てほしかったなーなんて思いながら、いやでもこれ大人になった今でも会社無くなってくれないかなーに繋げれる気がする。
ああでもZ市丸ごと消滅だっけ、ということは建物だけじゃなく皆死んじゃうってことか。
…もしかしてジェノスくんが雑に呼び出されたのはこれの件だったりするのだろうか…。

「…ってサイタマ何してんの?」

「あ?着替えてるんだけど」

「仮にも異性の前でよくそんな堂々と着替えられるね感心するわやっぱり無茶苦茶良い体してるねそういえば背中の方は触らせてもらってな…そうじゃなくて!」

警報を聞いてから、徐に立ち上がったと思ったら服を脱ぎ出して少し驚いた。
黄色の全身スーツに白いマントとはまた、まぁ…ヒーローっぽさは出てるけど…。

「まさか行くの?」

「おう」

「行ってどうすんの隕石だよ、災害レベル竜。その辺の怪人なんかとそれこそレベルが違う」

もうどうせなら最期までいつも通り駄弁ってようよ。

思わずそこまで言ってしまった言葉。
あー、しまった、ついやってしまった。
諦めが滲み出た言葉。コイツは諦めるような言葉が嫌いだって、あの時知らされてたはずなのに。

「…ごめん」

「……お前がさぁ、どうせ"また"独りになるかもってので不安なのは何となく察しが付いたけどな。俺は俺の家が壊されると困るから、隕石の方をぶっ壊しに行くだけだぞ」

あまり動くことがない表情のまま、いつものように淡々とサイタマはそう言った。
…どこまでも自分勝手だけど、悔しいけど少しだけ、かっこいいと思ってしまった。
そんなサイタマは着替え終わりそのまま玄関に向かっていく。


「ま、待ってサイタマ!」

「何だよヒイロ、まだ何かあんのか?」



どう考えても何も出来ないけれど。
ただやっぱり、来るかもしれない最期に独りだなんてやっぱり。

嫌だ。





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