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ピンポーン、と静かな空間に軽快なベルの音が鳴り響いた。
太陽は真上に居座り、世界を明るく照す。
近くの電線に止まった小鳥がチチチと鳴き始めた頃に、ベルを鳴らした家の扉が控えめに開いた。
「…あ、ヒイロさん」
「やっほージェノスくん、こんにちはー」
開いた扉から顔を覗かせた超絶イケメンことジェノスくん。そんな姿でも絵になるよすごい。
私が挨拶すると律儀に返してくれたのがまたポイント高い。
ポイント高すぎてそのポイントを何枚ものギフトカードと交換出来そうである。
「その調子だともう回復した感じかな?」
「はい、昨日はご迷惑をお掛けしました」
「やっだなぁ、イケメンに関わることが迷惑になり得ることなんて無いから気にしなくていいよー、というかご褒美まみれでした本当に有難う御座います」
…などと平和な会話を繰り広げているが、隕石の欠片がZ市全体に降り注いでから1日経っている。
あれから少しシルバーファングさんと話をした。
シルバーファングさんが私たちを恋仲だと思っていたという勘違いを解いておき、先程の隕石ぶっ壊した奴(言わずともサイタマのことだ)が多分探しに来てくれるだろうから帰って頂いて構わないと伝えたのだが、なんでも「中途半端に投げ出しはせんよ」らしく、サイタマが来るまでずっと話し相手をしてくれた。良い人である。
途中ジェノスくんに凭れられている重さに苦しんだが、「これは幸せの重み」「私は絶対にこの幸せを自ら手離さない」などをブツブツ言ってしまった為にシルバーファングさんに不思議な目で見られたが、まぁその事は忘れようと思う。
少し経つとサイタマが迎えに来てくれたから、そのままお礼を言ってシルバーファングさんと別れた。
帰りにサイタマにおぶられたジェノスくんを見て、漠然と兄弟みたいだなぁと感じながら。
「サイタマ居る?」
「ええ、お忙しいようではありますが」
「アイツの"忙しい"なんてどうせ大した"忙しい"じゃないんだから。お邪魔しまーす」
ジェノスくんと扉の間を潜るように入り込む。
さすがにジェノスくんの目があるところで靴を雑に脱ぐわけにはいかないから丁寧に脱いだ。
そしてサイタマの名を呼びながら部屋に入ると案の定、漫画を読んでる奴の姿。
「ほーらやっぱり。誰が忙しいって?」
「俺は何も言ってねーだろ」
「ジェノスくんにそう思わせたアンタが悪い」
まぁたジェノス贔屓かよ、とぼやいていたけど当たり前だ。ジェノスくんだぞ。
とりあえず持ってきていた荷物を置き、リベンジとして買ってきたケーキ(前に買ってきたものも結局食べてもらったが)をテーブルの上に置いた。
何だ何だと漫画を閉じて、此方に意識を向けたサイタマの動きが予想通りすぎてちょっと面白い。
少し遅れて入ってきたジェノスくんはお茶を淹れてきてくれたようだった。ほら良い子だ。
「で、昨日の今日で何か用があんのか?」
部屋と繋がっている窓から台所に手を伸ばしながら、サイタマが切り出してきた。
そうだ、今日は話すことがあって此処まで来た。
「えっと、良い報告と悪い報告があります」
「ええ…何そのめんどくさそうな…」
取ってきたスプーンを配りながら至極面倒そうな顔をされた。
ジェノスくんは私たちの会話を聞きながら、何も言わずにケーキを配膳している。
「じゃあとりあえず良い方から」とのリクエストを貰ったので、それにお応えすることにする。
「昨日の隕石の欠片により、私の会社が物理的に潰れました」
「…それは…」
「…良い報告、なのか…?」
「良い報告だよ、だって物理的に壊れただけだし建て直しとかはお偉いさんがやってくれるから私みたいなヒラは連絡待てばいいだけだもの!つまり物理的に何とかなるまで待機、との連絡が回ってきたからそれまで私はお休みも同然!超ハッピー!良い報告だよ!」
その流れで首切られる可能性があるのは否定出来ないけど!
でもそれも当分は向こうも考えられないだろうから、それまではこの解放感を楽しめる。
にっこにこしながら答えた私の態度にサイタマからジト目を向けられた。
「まぁお前がいいなら構わねえけどさ…」
「それで、悪い報告というのは?」
「…昨日の隕石の欠片により、私の家も物理的に潰れました」
「……あぁ…」
「…それはまた…」
二人に似たような反応をされたが仕方ないと思う。
実際いくら親しいとはいえ「家が無くなりましたー」なんて言われると反応に困ると思う。分かる。
「…責任取れって言われても無理だからな?」
「あ、違う違うそんなつもりで言ったんじゃない」
隕石があのまま落ちていたらZ市丸ごと消滅していたはずなのだ、むしろサイタマが砕いてくれたおかげで家だけで済んだというもの。
思うところが無いわけではないが、その矛先はアンタじゃない。
っていうのはまぁいちいち言わないが、まさかサイタマから責任がどうという話が来るとは思わず驚いてしまった。
「じゃ、何?」
「家が潰れたので住む場所がありません」
「だから?」
「先生、これはもしや一緒に住んでも良いかということを切り出しているのではないでしょうか」
「え、それはちょっと…」
形だけでも少しは悩めよ。
思わず苦笑したが、私が言いたいのはさすがにそんな事でもなくて。…いや似たような事ではあるけど。
ちゃんと否定してから話を続ける。
「さすがに住まわせろとは言わないけどさ、ほらこの辺ゴーストタウンじゃん。隣の部屋とか空いてない?」
「え、隣?」
「うん、隣」
そう、私の狙いはそこだった。
さすがにこの怪人が多く発生するといわれるゴーストタウンにずっと住む気はないが、Z市全体がこの有り様なのだ。潰れずに済んだマンションの人員なんてすぐに埋まるだろう。
となると、危険区域ではあるものの心強いヒーローの隣に住めれば少しは安全を確保出来るのではないか。
つまり新しい家を決めるまでの仮の住まいだ。
あと隣だと癒しが欲しいときにすぐに貰える。(ジェノスくん的な意味で)
「空いてると思うけど…引っ越してくんの?」
「そんな大したことじゃないけど。新しい家を見付けるまでの仮住まいとしてお邪魔したいなーって」
「ふーん…まぁ勝手にすれば?」
「じゃあ勝手にします。という事で早速お願いがあるんだけど、」
そう切り出した私の言葉に、本日もう何度目かになるサイタマの、至極面倒そうな表情が私に向けられた。
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