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家が潰れたとはいえ、使えるものも残ってるかもしれないから運びたい。が、一人だと骨が折れるから手伝ってほしい。
ヒイロさんがそう頼んできて、先生はあからさまに嫌そうな顔をした。
「ケーキ食べたでしょ、もう報酬は受け取ったんだから手伝ってくれるよね?」と笑顔で迫られた時は「成る程」と感心せざるを得なかった。
そうか、このケーキは後で頼むことを断られない為のものだったか。勉強になる。
先生もそう言われるともう逃げられないのか、面倒そうな顔のまま仕方ないと言って立ち上がろうとした。
「先生は休んでてください。俺もケーキを頂いてしまったので俺が行きます」
「え、ジェノスくんが手伝ってくれるのは嬉しいけどちょっと恥ずかしい」
そのような事にわざわざ先生が出向くことはない、そう思い俺が名乗り出たが反応が微妙だった。
この人にも恥じらいというものがあったのかと、微かに思ったのが表情に出たのかもしれない。ヒイロさんに「え、何だろうその反応」と言われた。
「先生は昨日の疲れもまだ残っているでしょうし、それくらいのお手伝いなら俺一人で大丈夫です」
「うーん…そう言われると私も強くは出れないや」
「いや別に疲れてもねーけど…まぁいいか」
という訳で今俺はヒイロさんの家…があった場所に来ている。先日言っていた通り徒歩で行き来できる距離で、先生の家からあまり遠い場所ではない。
だが隕石の影響でその周辺は荒れ地と化していた。
ヒイロさんの家という物も見た感じ綺麗に潰れたようだが、確かに探せばまだ機能する物もあるかもしれない。
「ごめんねジェノスくん、ほんとにこんなことS級ヒーロー様には押し付ける気はなかったんだけど…というかジェノスくんが来てくれるならそこに立っててくれるだけで私の未知なる力が目覚めて一人で作業出来るかなとすら思ったんだけど、さすがにそんな事無くて瓦礫持ち上げられる力すら無くて本当にコキ使うみたいになって本当に本当に申し訳ない」
「いえ…」
ヒイロさんの言うことはよく分からないことも多いが、それを理解出来なくても相手は気にしないようだというのはこの数日で学んだ。
「それにしても少し意外でした。一人暮らししているという口振りだったので、てっきりマンションかアパートの部屋を借りていると思っていたのですが…」
「ああ、うん。ご覧の通りマンションでもアパートでもなく一軒家で実家だね」
「実家…ご家族の方は無事だったんですか?」
もしやご家族全員で先生の住んでるあのマンションに越してくるつもりだろうか。
不都合な事はないのだが、てっきり彼女一人だと思っていたので認識を改めなくては。
散らかった瓦礫を掻き分けながら、そんな事を思っていたのだが。
「家族はもう居ないなぁ」
答えられた言葉に手が止まった。
まさか、昨日の隕石の影響で亡くなったのだろうか。まさかこの使えるものを探すという作業も、実はご家族のご遺体探しだったりするのだろうか。もしそうだとしたら俺の今の言葉は少し軽率すぎた。
だが待て、確かニュースでは死人は居ないと報道していたはずだ。…いや、それも"現段階では"だ、遺体が見付かっていないのであればそれは死人扱いにはならない。
「ジェノスくん?」
しかしそれならなぜヒイロさんは今「家族はもう居ない」と答えられた?
もしかして「居ない」というのは何処かに出ているという意味での居ないというだけで、「死んだ」という事ではないのか?
「ジェノスくんってば」
「あ、はい、何でしょう!」
しまった、考えていてヒイロさんの声に気付かなかった。
怒ってはいないようだが、その顔は不思議そうな色で染まっている。
「いや、別に何かって訳じゃないんだけど…急に動きが止まったと思えば、何やら真剣に考えてたみたいだからどうしたのかなぁって」
…成る程。
これは聞いた方が早いかもしれない。…が、聞いていいものなのか些か疑問でもある。
だがせっかくヒイロさんから聞いてくれたのだ。
「失礼ですが、ご家族が居ないというのは一体…?」
「ん? そのまんまの…あぁ、そういう事?」
俺の疑問に気付いたのか、不思議そうな表情から一変した。
すっきりしたような、そんな顔で笑顔を見せる。
「ごめんごめん、確かに誤解を生むような流れだったね。家族が死んでもう10年くらい経つから今回の隕石は関係ないよ」
カラッと笑いながらそれだけ言うと、ヒイロさんは瓦礫漁りの作業に戻った。
…俺もいつまでも手を止めているわけにはいかない。せっかく先生の代わりにと名乗り出たのだ。
力にならなくては。
それから暫く瓦礫を漁った。
一軒家の跡を掘り返すのだから、思っていたよりも労力を使う。
ヒイロさんはというと、何かを懸命に探しているのか、それともただ俺にだけ任せるわけにはいかないからと頑張っているのか、息を切らしながらも作業を続けていた。
適度に休んだ方がいいのではと思うが、彼女も子供ではないのだしお節介なのかもしれない。
「…?」
ふと、瓦礫の隙間から何かが落ちた。
泥だらけで、少し変形さえしているそれは、どうやら写真立てのようだった。
拾い上げて表を見てみる。…人が4人写っていた。
だが大部分が泥で汚れてしまっていて誰が誰だかの判別も出来そうにない。
「ジェノスくんどうかしたー?」
少し離れた場所からヒイロさんが尋ねてくる。
俺は少し考え、彼女の元に向かった。俺が近付いてくるのが予想外だったのか、小さく驚きの声を上げている。
が、俺の手に持つ写真立ての存在に気付くと、「あー…」と伸びた声を出した。
「ヒイロさん、これは?」
「ご覧の通り家族写真…なんだけど見事に汚れてもう分かんないなぁ…」
あ、ご覧の通りも何もここまで汚れてると分かんないか。
そう付け足して彼女はその写真に映った、泥で汚れた人たちを指す。
これが父、これが母。そんでこれが弟でこの弟に密着してるのが私。
楽しそうな、それでいて少し寂しそうな声色で話始める。
「うちの弟可愛かったんだよー、歳が離れてたってのもあるのかもしれないけど何かあればねーちゃんねーちゃんって寄ってきてさ」
俺の持つ写真に付着した泥を、取れないかと試すように払う仕草をするヒイロさんだが、やはり落ちることはないようだ。
彼女もあまり期待はしてなかったのか、小さく肩を落としただけだった。
「…その、ご病気か何かでしょうか?」
「ん? ………んー………」
両親だけならまだしも、弟となると何か特別な原因が無いとおかしい。
一番有り得そうなものを挙げてみるが反応が鈍かった。ヒイロさんは少し考える素振りを見せてから、俺にならいいかなと呟くとこう続けたのだ。
怪人に、やられたのだと。
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