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夢を見た。

数年前だと悪夢だと言ってしまうような、残酷で、今となってはとても懐かしい夢。
家族が生きている夢だ。
母も父も弟も過去の姿のまま、今の私と過ごしている夢だった。
昔の楽しかった頃を見せられるよりはどうせ架空の話だし精神的に楽だけど、それでもやっぱり少しテンションが下がる。
これじゃ住まい探しに外を歩き回る気分になれない。






「ということでジェノスくんヘイカモン!!!」

「…おはようございます、ヒイロさん」

「おはようジェノスくん本日も輝いてるね、ハグしていい?」

「話が見えません」

突撃隣のイケメンヒーロー!を実行したのにジェノスくんのまずは挨拶、という礼儀の良さに感心する。…反応に困ったからとりあえず挨拶で返しておいた、という可能性もチラチラ見えた気もするがきっと気のせいだろう。
だってジェノスくんだし!

「お前さー、いきなり来て騒ぎ始めるのやめろよな」

テーブルの奥で、サイタマが箸で此方を指した。
そう、丁度この二人は朝食を食べているようだった。
私はというと、起きてから適当に買っておいたパンで朝食を済ませて、そのまま来たのだが。
ちなみにサイタマの行儀の悪さは今更なので特にツッコミもしない。

「なんか騒ぎたかった気分だったんだよ」

「俺らを巻き込むなよ」

「他に巻き込める奴が近くに居ないでしょうよ」

私がそう返すと「巻き込むってことをやめろ」とか言われてしまったが、適当に流した。
そんな脇からジェノスくんが朝食は要るのか聞いて来る。
…私がご飯時にお邪魔する度に、ご飯は必要なのかと聞いてくれるジェノスくんが、良い子を通り越してもう嫁だ。養いたい。
ジェノスくんの良い子っぷりに手を合わせながら(サイタマに変な目で見られた)、もう食べたから必要ないと答える。
ジェノスくんはいつものように淡々と「そうですか」とだけ返して、食事を再開した。

「…え、なに飯じゃないなら何しに来たの?」

「私をタダ飯食らいみたいに言わないでよ」

割と本気っぽく聞いてきたサイタマに思わず突っ込んだ。

「いや、せっかくのお隣さんだし1日のジェノスくんエネルギーをハッピーチャージしておこうと思って」

「…! ヒイロさんは何かそういうエネルギーをチャージするパーツを使っているのですか?」

「えっ、待って私100%生身だよ」





少しだけサイタマの家で騒いだ後、住まいを探しにとまではいかないが、何となく外に出たい気分だったので家を出た。
何か買うにしても必要最低限のものはもう買ってあるし、特に買いたいものもないのでどこに行くかもノープランだけど。
せっかくだし物理的に潰れたらしい勤め先でも見ておこうかなぁ、なんて考えながらマンションのエントランスを出ると、最近知り合った顔を見つけた。

「あれ? シルバーファングさん?」

「……おお、嬢ちゃんか」

「こんにちは、先日はお世話になりました」

やっぱりシルバーファングさんだった。
私が挨拶をすると優しく笑ってくれる。
あんなに強くてこんなに優しいおじ様素敵すぎでしょ、惚れる。ああでも私にはジェノスくんという王子様が………つっこんでくれる人誰もいない時にこういう事を言うのは、流石に自分でもどうかと思うからやめよう。
それにしても特に寒い季節でもないのに、シルバーファングさんの先日よりも着込んだ装いが少し気になった。

「こんな所で会うとは思いませんでした、この辺りにご用事でも?」

「ん? あぁ…まぁそうなるかの…」

歯切れの悪い返事を不思議に思いながらも、用があるのならばここで長々と足止めさせては申し訳がない。
それじゃあ私はこれで、と早々に切り出したのだが、そこでシルバーファングさんに引き留められた。

「サイタマくんが住んでるのは、この辺で間違いないかね?」

「えっ、サイタマですか?」

こんなゴーストタウンにわざわざ出向かなきゃいけない用事とは何なのだろう、と密かに抱いていた疑問が解消した。サイタマに用があったらしい。
何だろう、サイタマ何かやらかしたのかな、じゃないとこんなS級上位のヒーロー様がわざわざ来るわけないよね。
わざわざ出向くほどの怒りを買ったのかなサイタマ…いや今のあのサイタマならそれでボコボコにされるってことは無いだろうけど、万が一の可能性も………………無いわー!!こんな優しそうなシルバーファングさんがそんな怖そうなことするはず無いわー!!!

「サイタマの家ならこのマンションの…ここから丁度見えるあの部屋ですよ」

「おお、そうじゃったか」

「ご案内しましょうか?」

「いや、そこまでやってもらわんでいい」

嬢ちゃんも何か用事があって出てきたんじゃろ、わしなんかに構ってないでそっちを優先なさい。
なーんてとても優しさに溢れるお言葉を頂いてしまった。
ここで「いやぁ、実は特に何も予定がなくて暇だからブラブラしようと外に出てきたんですよねー」なんて答えると、さすがに20半ばの女がそれでいいのかと思わなくもないから、如何にも何か予定があるようなフリをしてそのまま去ろうと思う。

「ではお言葉に甘えて失礼します、シルバーファングさん」

「おう、またの」



さーて、ブラブラするぞー!





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