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それから少しして、先生はお風呂に向かった。
入る前に、先にヒイロさんに風呂はどうするかと聞いていたが、「男の部屋の狭い風呂に入るのってなんかアレだし何より着替え無いからいいやー」だそうだ。
それもそうだと返してから先生は風呂に向かったが、そこで発生する問題がひとつ。

二人きりになってしまった。

相手が知らない奴だったり関係ない奴だったら俺もそんな事考えずに済むのだが、仮にも先生の、しかも結構親しい友人ときた。
あまり失礼な態度をとっては後々先生に何か言われるかもそれない。だからといって気を遣うにしてもどうすれば…。
当の本人は今は携帯を手に何やら熱心に何かを調べているようで、俺の気まずい雰囲気にも気付いていないようだ
…とりあえず、洗濯物を畳んでおこうか。

「あ、ほんとだー!サイタマもジェノスくんも名簿にばっちり居るね!」

と、思ったところでヒイロさんが声をあげた。
どうやら先程から熱心に調べていたのはヒーロー協会のホームページだったようだ。

「はい、とはいってもなって間もないのでまだ最下位ですが」

「それでもジェノスくんはS級のだけどね! しかしこの名簿に知り合いが載るとなるとやっぱりテンション上がるなーすごいなー!」

あ、別にさっきのジェノスくんの話を疑ったってわけじゃないからね!!
と力強く付け足したヒイロさんは、再び画面を見詰めながらうきうきとした顔を浮かべていた。
ヒーロー名はまだなんだね、と続けたことから先生よりはずっと協会について知っているようだったが、よくよく考えてみれば知らなかった先生の方が珍しかったのだろう。

「名簿見てて思い出したけどジェノスくん、さっき自分はサイボーグとなって、みたいに言ってたけどそれって一部?それとも全身?」

「全身ですよ」

「えっ全身なの!?」

何故そこで驚いたのだろう。
心なしか目も光った気がする。

「ご飯とか一緒に食べてたし、てっきり腕とかの一部だけサイボーグで他は生身なのかなーって思った!」

「ああ…俺が今までのように食事が出来るのは博士がそうしてくれたからなんです」

「へー、難しいことは分かんないけど、きっとその博士さんはいい人なんだねぇ…ってところでジェノスくん」

「何でしょうか」

「全身サイボーグならセクハラにギリギリでならなそうだし、是非そのボディを触らせて頂けませんか?」

博士のことを褒めてもらって少し誇らしく思ったのに、続いた言葉に少しげんなりした。
忘れかけていたがそういえばこの人、部屋に来て最初にやったことが先生へのセクハラだった。

「何故貴女はそんな異性に触れたがるのですか…」

「えー別に異性に限った話じゃないけど…下心よりずっと可愛いただの好奇心だから…」

さすがに少し気まずく思ったのか、ヒイロさんは視線を床に落としながら期待か恥じらいかに染まった顔をしていた。
別の話題でこの話を反らすことも難しそうだし…エスカレートしても厄介だ、一度触らせれば気が済むだろうか…。

「…腕だけでいいなら…」

「ひゃっほーい!そうこなくっちゃね!!」

渋々許可の言葉を出すとすごい勢いで飛び付いてきた。
誤作動といったことを起こすほど安い作りをしていないからいいものの、何の考えも無しに触れると危ないとかは考えないのだろうか。

「おおお硬い…すごく硬い…すごい…おお…」

すりすり、ぺたぺた、とんとんとん。
そんな音を立てながら俺の腕の装甲を楽しそうに触るヒイロさん。
触られてる間は俺は何も出来ないから好きにされているだけなのだが、それはそれで気まずい。
彼女なりに壊したりしないように配慮しているのか乱暴な触り方はしていないものの、それがまた何やら言葉にしづらい気持ちにさせられた。

「…あの、」

「んー?なぁにジェノスくん?」

触りながら何とも楽しそうな声色で返事をされてしまった。
楽しいのかと問うつもりだったがこれでは愚問になる。

「ええと…そんなに珍しいですかね」

「そりゃ珍しいでしょうよ!」

…まぁ確かに、一般人ならサイボーグの体をした相手と関わることなんてあまり無いのだろうし当然なのかもしれない。
しかしそこでふと疑問が生まれる。
この人はサイタマ先生の幼馴染みだと言っていた。
普通の、何の力も持たない弱い人間が果たして先生の側にいられるのだろうか?
先程の会話からヒーローでは無いのは分かったが、サイタマ先生でさえ先日までプロのヒーローではなかったのだ。

「…一つ質問なのですが」

「えっなになに何でも聞いて!? ジェノスくんの質問になら何だって答えちゃう!答えられる範囲なら!ちなみに彼氏は居ません!!」

「ヒイロさんは、強いのですか?」


俺のその言葉を聞いて、俺の腕を触るためにずっと動かしていた彼女の手が止まった。
そのまま此方を見て目をぱちぱちとした後、首をかしげて一言「何で?」と返してくる。

「あのサイタマ先生の幼馴染みとなると、やはり同様に強い力を持っていたりするのかと思いまして」

「ああ、なるほど…」

するとヒイロさんは、俺の腕からようやく手を離し困ったような顔で笑うと、俺の目から見て自分は強そうか、と聞いてきた。
答えとしては否、強そうに見えない。だが「もしかして」と思ってしまったのは、きっと先生という存在のせいだろう。

「…失礼しました、一般人にしか見えなかったものの先生の例もあったので一応」

「ジェノスくんの中のサイタマの第一印象がとても気になるところですが」

私を一般人の括りに入れるのも何か違う気はするよねぇ。
後に続いた言葉に思わず彼女の目を見張った。
「ああっジェノスくんっ、そんな熱い視線であまり見つめないで!溶ける!」などと楽しそうに言っていたがそんなことはどうでもいい。

「一般人の括りに入るのが違うとは、つまりどういうことですか?」

「んっふふ食い付いてくるねジェノスくん、あまりに乙女の秘密に踏み込んでくるのならジェノスくんの体も腕だけじゃなく沢山触っちゃうぞ☆」

「………」

「ええ…そこでそんなちょっと引いたような顔するのやめようよ、そればっかりはいくらイケメン相手でもダメージ来るよ…」

何だか聞き出すのがどうでもよくなってきた。
乙女の秘密がどうとか言っているがこの人の事だ、此方に触るための交渉手段として言い出しただけのことかもしれない。
それに幼馴染みとのことだし先生が何か知っているかもしれない、そこに考えが至った故に俺の興味はもう逸れてしまった。

「単純に私みたいな触りたがりの人が一般人でいいのか、ってだけだよ」

と、へらりと笑ってそう付け足した。
まさかそんなにジェノスくんが食い付いてくるとは思わなかったなー、と独り言のように呟く。
…なんだ、強さを隠しているとか、そういうワケではないのか。先生の例に引きずられすぎたか。

「まぁ確かに、ヒイロさんは変な人ですよね」

「そうだよー、私変な人なんだ」




ヒイロさんはそこで何故か、とても優しそうに笑った。





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