08
「先生!」
飯の支度も済んで、鼻で笑えるようなバラエティ番組を見ながらジェノス達が戻ってくるのを待っていたら聞こえた声。
どうやら玄関の外から呼んでるようだけど…俺カギ閉めてなかったよな?
ちょっとだけ不思議に思いながらも、まぁヒイロの奴が荷物を沢山持ってきてジェノスに持たせたのかもしれないと、適当な理由を想像しながら玄関に向かう。
だが扉を開けたら想像してもなかった光景があった。
「…え、なに、何がどうなったのそれ?」
「先生、どうすればいいですかね」
「いやそれ俺が聞きてーよ」
ジェノスがヒイロを姫抱きして帰ってくるなんてどうなってんだそれ。
ヒイロはヒイロで目をぱちくりさせながら状況分かってないみたいな顔しやがってさ、お前が分かんなかったら俺が分かるはずねーよ。
「何かあったの?」
「…わ、私にも何が何だか…」
お前が分かんなかったら俺が分かるはずねーな。
ただこいつの、状況に対して大人しい態度で、何かはあったんだろうなと察することは出来た。
「…とりあえず部屋入れよ、ヒイロ降ろしてから」
いつまでも玄関で話してるのも何だし…と先に部屋に入る。
後ろでジェノスが「立てますか?」やら「大丈夫ですか?」やらとヒイロを心配しまくってるがほんとどうしたんだ。
もしかして怪我でもしてたか?
少し気になって振り返ったら、ジェノスに肩を支えられながらヒイロが口を手で隠していた。
お前実はやっぱり元気だろ。
「で、さっきのアレ何?」
適当に座って、どうして抱き抱えられていたかというさっきの話題を掘り返す。
ジェノスが正座なのはもういつものことだから気にしないが、ヒイロまで正座とは。しかも背まで丸めていた。
「いや、私もよく分からないままあんなことに…」
「ジェノス?」
「はい、あれからすぐにヒイロさんを見付けたのですが…要約すると、様子がおかしかったので先生に何とかして頂こうと連れてきました」
何だそれ。
コイツが様子おかしいっていつもだろ…ああいつもがおかしいから大人しくなると逆におかしいんだった…。
「なに、お前なんかあったの?」
「あー、あったっちゃあったけど別にそんな…気にして貰うほど大したことじゃないよ」
目が泳いでる目が泳いでる。
何か隠してるってのはバレバレなんだけど、言いたくないなら別に無理して聞く必要ねーしなぁ。
ジェノスは「やっぱり帰るとか言っていたのに、大したことじゃないとは信じられません」とか結構突っ込んでいってるけど。
っていうか、
「お前今日来ないつもりだったの?」
「え、えー、いや、まぁ、ちゃんと来たからいいじゃんごめん!」
勢いよく頭を下げられたが、その勢いが仇になって机に頭をガンッとぶつけてやがんの。
案の定、音も音だし結構痛かったようで、すぐに頭が上がって痛いと悶え始めた。
ぐおおおお…とか色気もクソもない唸り声を上げている。
ちょっと可哀想になったからジェノスに何か冷やすものを頼んでやると元気な返事で返されたが、こっちはこっちで勢いよく立ち上がったから机に足をぶつけていた。(まぁコイツの場合はサイボーグだから痛みは無いみたいだが)
二人して机こわすなよーとか思ってるとヒイロが顔を上げた。あ、涙目だ。
「ちょっと怪人に会っちゃって気が動転してただけです! 気を遣わせてごめん!」
赤くなったおでこに手を添えながら、台所に向かったジェノスにも聞こえる大きめの声でそう言った。
怪人、怪人かなるほど。
戻ってきたジェノスから掌ほどの大きさの氷袋を受け取りながら改めてごめんとか言っているヒイロ。
「その怪人はどうしたんですか?」
「どうしたもこうしたも知らないや、私逃げることで必死だったし」
受け取った氷袋をおでこに当てながら苦笑している。
まぁ、そうだよな。コイツ戦えないからそりゃ逃げる選択肢しかねーわ。相変わらず怪我は無さそうだけど。
…そういえば俺も買い物から帰る時に怪人に会ったな…もしかして同じ奴だったりして、ハハ。
「元気が無かったって理由はそれ?」
「そうそう、まぁその元気無かった状態もジェノスくんのおかげで大体回復したけどね!」
「いえ、俺は何も…」
「人をお姫様抱っこしておいて何もしてないとは白々しいわよジェノスくん! さっきは驚きと色々で反応出来なかったけど時間差で今ドキドキしてる!ジェノスくんみたいなイケメン代表の可愛い男子にお姫様抱っことかされて興奮してる!あんなことしてもらえるなら定期的に元気無くそうかなとか考えちゃうレベルだったよ、いやしないけどね!ありがとね!!」
…調子戻ったみたいだな。
ジェノスもそう感じたようで心なしか安心したような顔にも見えた。
「って事らしいからジェノス、ヒイロが元気無い時は俺に持ってくるんじゃなくてハグでもしてやれ」
「分かりました」
「ちょっとサイタマ何言ってくれてんの最高かよ、いやハグなら今してくれてもいいよ」
「遠慮しておきます」
ジェノスの即答にヒイロは「飴と鞭っ」とか叫びながら横にぶっ倒れた。
さて、コイツも元気が出たところで俺には気になることが一つある。
「さっきから気になってたんだけど、お前の荷物であろうその白い箱なに?」
指でジェノスが下ろしたヒイロの荷物を指す。
ヒイロはぶっ倒れたまま俺が指したものを見て、あー…と言いにくそうしていた。
「手ぶらで戻ってくるのもなぁと思ってケーキ買ってきたんだけど…」
「お、まじで」
「この通り常温のままで何時間も置いてしまったからもう食べない方がいいよ」
「捨てるのですか?」
「そ」
えぇ…そんな勿体ない…。
数時間放置しただけでケーキって駄目になるもんなのか?
大丈夫じゃね?って言ったら「明日お腹痛くてお尻も弛くなってトイレがお友達になるかもしれないけどいい?」って言ってきやがった。嫌だよ。
「では俺が貰います」
しょうがないが諦めるかーって思ったところにジェノスが名乗り出た。
え、なに、ケーキ好きだったのかなコイツ。
ヒイロも驚いたようで、勢いよく起き上がった。
「ジェノスくん〜、次来るときまた買ってくるから確かに勿体ないけど諦めて!ジェノスくんをトイレのお友達にしたくない!」
「いえ、俺は排泄はしませんしお腹を痛めることもありません。味がこの短時間で変わるとも思えませんので、せっかく買ってきて頂いたのですから俺の分くらいは食べさせてください」
そうか、なるほどサイボーグにはそんな利点も…じゃなかった。
ジェノスが箱を開け、中身を覗き悩んでるのを見て、ジェノスが食うなら俺もやっぱ食おうかなぁとか考えてる時。
「ジェノスくんは優しい子だねぇ」
ヒイロがジェノスに手を伸ばし、そのまま箱を覗いていたジェノスの頭をにこにこして撫でていた。
ケーキを選んでて?気付かなかっただけなのか、ジェノス昨日は避けていたのになぁと漠然と感じながら俺も側に寄る。
ちょっとくらい平気だろうし、ジェノスが食うならやっぱ俺も食っちゃおっと。
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