ソニック
バレンタインネタ
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時は夕刻。
街の賑わいもそろそろ沈んでいき、空には闇がうっすら掛かってきている。
一仕事を終えて何処かで食べて帰ろうかなと散策していると、知っている気配が背後から近付いてくるのに気付いた。
「やぁやぁソニック、キミとこんな街中で会うとは珍しいね」
ある程度距離が狭まったと感じた頃合いに振り向いて挨拶をする。
案の定その気配はソニックのもので、相も変わらず仏頂面を携えていた。
いつもと違ったのは、よく知っている服ではなく私服だったという点だろうか。
挨拶をしたことにより、彼は小さく鼻を鳴らした。
「ソニックくんや、挨拶を鼻で返すのはあまり行儀が良くないわ」
「貴様もそのふざけた喋り方を止めたらどうだ」
ああ言えばこう言うとはこんな感じであろうか。
ソニックの返しが実に幼く聞こえて、思わず小さく笑いを溢す。
それを馬鹿にされたものと勘違いしてのか、仏頂面を形成していた彼の顔の表情筋はムッとしたものに変わった。
「ああごめんごめん、怒らないでよ相変わらずねぇ」
「…フン」
また鼻で返された。
と思えばソニックはゆっくりと前に進み始める。
その方向は私が先程から進み続けている方向で、彼もこっちの方に用事があったのだろうと察する。
てっきり私に何か用でもあったのかと思ったのだけれど、どうやら自意識過剰、だったかな。
…と、進むソニックをその場で見送っていたらふと本人が此方をチラリと振り返った。
………おや?
「何?」
「………」
何よ。
もしかすると、やっぱり私に用事があったと考えて正解なのかも。
目で「早く来い」と伝えてくるソニックに応えて私も歩き始めた。
「それで、本日のご用件は?」
何か用事があるのであれば、早めに聞いておくに越したことはない。
というのも私はあらゆる情報をかき集め、それを望む者に提供する情報屋というものだ。これまでに何度かこのソニックにも依頼されて、今のこの関係がある。故に彼が何の理由も無く私に近付くことは考えられない。
私がそう切り出したことで再び彼は此方に視線を寄越した。
…が、また視線が前に向く。
…おかしい。
「ソニックさーん、何か私にご用なのではー?」
少し先に行くソニックに駆け寄る。
横に並んで顔を覗いてみるも、その顔はよく見慣れた無表情。
ますますよく分からなくなりその場で足を止めたら、少し進んだ先でまたもやソニックも足を止めて此方を見やる。
ついてこい、ということなのだろうか。
とりあえずそう判断して着いていくことにする。
「情報屋、今日の日付は?」
かと思えば唐突にソニックが口を開いた。
前を向いたまま、此方に視線を傾けることもなく半ば呟くような声色だ。
「2月14日ですね」
「何の日だ」
「バレンタインです」
淡々とした受け答えで、私なりの答えを出す。
確かにバレンタインといえば過去にいくつもの事件や事例、もしくはそれに倣った逸話がある。
そしてこのソニック、暗殺や用心棒といった戦闘を要する仕事を専門としているから、事件ならともかく逸話となっては恐らく疎い。
もしかすると次の仕事で何か関係するのかもしれないな、と納得して私は携帯を取り出した。
「過去の2月14日に関わる件は過去に調べたことがあるのでデータベースに残っているはずです。なので一通りのことなら帰ったらすぐにご用意出来ると思いますが」
何を知りたいのか、それによる報酬は、などを相談しようと切り出したのだけれど返ってきたのは呆れたような溜め息。
その理由が分からなくてソニックの方を見ると、薄く開いた目と合った。
「…やはり、用意しているはずもないな」
「? まぁ急な依頼だったからそりゃ。でもすぐに用意出来ると」
「違う」
何が違うのか。
いい加減コイツが何を求めているのか分からなくなってじとりとした視線を送る。
するとソニックは腰に着けているポシェットに手を突っ込み、かと思えばそこから取り出した物を投げてきた。
ふわりと放物線を描いて私の元に落ちてきたものは、難なく私の手の中に収まったが…、
「貴様にこのような色事を期待しないでおいて正解だった」
「…ソニックさんや、これは…?」
バレンタインの定番の、チョコ…だろうか。
派手すぎない、しかし可愛い包装の私の手に収まる程の小さな包み。
単純に考えてバレンタインのチョコなのだろうが、渡してきた相手はこのような行事に縁が無さそうなこの男である。
「2月14日のこの日に、異性にそれを渡す理由なんて情報屋の貴様ならいくつも挙げられるはずだが?」
「…まぁ、挙げられなくはないけど……これどういうつもりで受けとればいいのよ…」
単純に考えて、これは何かを試されているのだろうか。でも試すだけならこのプレゼント用の包装は何なのだろう。
包みを見ながら悩んでる私を見て、ソニックは私もよく知る人を小馬鹿にした笑みを見せた。
「ならば情報屋、依頼をしよう。その包みを何故俺が渡したのか、その真意を探ってくれ。期限はそうだな、来月の14日だ」
その時に俺が望むものを用意できたのなら、報酬は最高のものを用意しよう。
そう告げるとソニックは一人で先に歩いていった。
来月の14日といえば、思い当たるものは一つしかない。だが私の頭はまだその可能性を「あり得ない」「期待するな」と否定する。
…だけど背を向けて先を歩くソニックの、赤くなった耳に気付いてしまったらもう逃げ場なんて無いじゃないか。
つられた私も、顔に熱が集まっていくのを感じた。
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