ソニック


これの続きなホワイトデーネタ

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3月14日、ホワイトデー。バレンタインの日に女の子からチョコを受け取った男の子が、その想いを返す日である。勿論世代を問わないイベントであるから、今の言い方には少し語弊が生じるかもしれないが。

そしてソニックから一応受けてしまった依頼の期限の日でもあった。


「…あんな言い方したってことは、訪ねてくると思ってていいのよね…?」

チラリ、と机の端に置いた箱を見る。私にしては珍しい、可愛いといえる物だと思う。
こんな堂々と置いていたら如何にもすぎるから、とりあえずは引き出しにしまっておこう。
本来ならば貰った身だし、返すためには此方から出向くのが普通なのだろうが…生憎私は彼の住居を知らないし、だからと言って本人を探すために走り回るのも骨が折れる。
…まぁ住居に関しては調べられないことはないと思うが…。

ぐだぐだと考えていると、外から足音が聞こえてきた。
この部屋に来ることに迷いのない慣れている足音、きっと常連の誰かだろう。
加えて条件を付けるのなら、本日は彼との約束の日。きっとこの足音もソニックのものだろうと推察した。
…過去に音もなく部屋に入って来たソニックに、パソコンの画面を眺めていた私は酷く驚いて「気配を消して入ってこないで」と言ってしまった事がある。
相手も私とは違った方面のプロだし、それは無茶な頼みだったなぁと彼が帰ったあとに思い返したのだが、律儀にもあの男、その後の来訪時には普通に音を立てて入ってくるようになった。
あの時は私は警戒するに価(あたい)しない位置に入ったのかな、なんてそれはそれで嬉しく思ったけれど…今にして考えてみるとあれも彼なりの優しさの一部…だったり…したのだろうか……。
……ああ駄目だ駄目だ、そんな事考えてる場合じゃない落ち着け私!


「…何を百面相しているんだ貴様は」

「ひあぁっ!?」

やばい変な声出た。

「あ、ああ、キミかソニックくん、よく来てくれたね、本日はお日柄もよく…」

「ご託はいい、要件は何か分かっているだろう?」

…いけない。
どんな内容であれ、一応は依頼として受けてしまったのだ…と言っても報酬はあやふやだしその他諸々についての話し合いも一切無く…………あれ? これ依頼としてだと私受ける必要無かったんじゃないか?
……まぁいいや。

「えーっと貴方の真意を調べろとのことでしたので、あの日頂いた箱の中身のことからお話致します」

「…は?」

「あの日バレンタインデーだったこともあり中身はチョコレート、のイチゴ味。成分を調べてみたところよくある甘いチョコレートの成分ではあったのですが、この周辺で購入出来るどのチョコレートとも成分及び形、その他諸々で完全に一致するものは無く、あのチョコレートは手作りであったのだろうと推測出来ます。続いてそのチョコレートを包んでいた外装についてですが………ソニック?」

ソニックが頭を抱えているのが目に入った。頭痛が痛そうとはこういうことだろうか。…いや、何でもない。
しかし報告の途中で、本人が聞いていないとなるとその意味がない。

「…いや……そうだな、貴様は…そんな奴だったな……」

「…それは褒め言葉でしょうか?」

「……………」

せめて何か言えやコラ。
しかしこんな反応をされるということは、もしかして失望させてしまっただろうか。
一応は依頼とされてしまったのだから、恥ずかしいのを抑え込んで彼から渡されたあのチョコレートの意味を探り、考えた。
簡単に纏めてしまうと手作りのチョコ、外装も粗末ではないものだった。
そんな丁寧なものをバレンタインデーに貰うとなると、私も鈍くはないつもりだから察しはつく。
……でもソニックの今の様子だと、呆れられたかな、なんて。


「…情報屋、その報告はいいから俺が今から聞くことに対して答えろ」

そう再び此方を見据えたソニックの目はとても落ち着いていた。
…報告することで恥ずかしさを誤魔化してるところがあったから、突っ込まれるとちょっと危ないかもしれない。
でも必要な情報だけを欲しがっているなら、それに応えるべき…と考えて承諾した。

「…チョコは美味かったか?」

「はい、ストロベリーチョコは実は大好きなのでとても美味しかったです」

ソニックが少し目を見開き、そしてすぐに戻る。
かと思えば少し嬉しそうにも見えて私は今少し恥ずかしい。

「…結論から聞かせろ、お前の調べたところ、先日そのチョコを渡した俺の真意はどうだった?」

「えーっと………その…違っていたら物凄く申し訳なくて恥ずかしいのですが……えーっと、……私の事を悪くは思っていない、ってところでしょうか」


「好きだ」


ヒュッと息を飲んだ。
今のは駄目だ、不意打ちだ、汚い忍者さすが汚い。
平静を装っていたつもりだったが今ので全て崩れてしまった気がする。
徐々に顔に熱が集まるのが分かる。鼓動がうるさい。
私が何も言わなくなったからか、はたまた私の顔が赤くなっていくのを楽しんでいるのか、ソニックの目が楽しそうに細められた。
私は今とても恥ずかしい。

「それで? この俺にここまで言わせたんだ、お前からは何か無いのか?」

此方の反応を楽しむような、たまに見せられる彼の楽しそうな顔に不覚を取られながら、私は先程引き出しにしまった物を取り出す。
言ってしまえばこれはホワイトデー用の、バレンタインのお返しの品である。
しかしこのまま答えてしまうのは、少し悔しい。

「これはご依頼された情報を私なりに受け止め、そして用意した品です。…が、依頼されていた物だけで結構ならば受けとる必要はありません」

「…まったく、貴様はどこまでも…」

「しかしもしも貴方がこの品を望むのならば、此方からは報酬の上乗せを要求します」

予定とは異なってしまったが、一応筋道は立った。
私はこれでも自分の集めた情報に自信を持っている。 故に、きっとソニックならこの要求にきっと食い付くだろうと半ば確信さえしている。
案の定ソニックは片眉を上げ、目で此方に言ってみろと訴えてきていた。
一つ深呼吸をし、ソニックへと歩み寄る。


「私、名前っていうの、最強の忍者さん?」


彼の手を取り、丁寧に箱を受け取らせる。
試すような笑顔を作った。が、顔が赤くなっている自覚があるので締まっていないだろうとも思う。
だがソニックの方も私が手を握ったからか、はたまた別の理由があるのか分からないが、顔が少し赤くなっていた。
その事を少し嬉しく思いながらも、忍者なのにそんなに分かりやすくていいのかと心の中でこっそり笑い、彼の言葉を待つ。

「…それで、答えはどうなんだ、名前」

「有難うソニック、私なんかで良ければ是非」

少しだけ溜めたあと、顔を背けたと思えば目だけを此方に向けて名を呼んでくれた。
報酬の有無のない対等な関係を望んでくれたんだ、情報屋という役ではなく名前で呼んでほしい。その意味をどうやら汲み取ってくれたようだ。
…正直のところ、私はソニックの事を良くは思っている。が、それが恋愛感情かと問われれば首をかしげるのだ。
しかし今までの関わりから、彼がこのようなアクションを取ってきたということはきっと、…ほ、本気…というか…、嘘やその場の勢いってことはないのだろう。
だからその気持ちに応えてみたい。恋愛感情を抱けなかったらその時はその時だ。


「…あ、ごめん握ったままだったね」

手が未だにソニックの手に添えられたままだったことを忘れていた。
男なのに繊細で綺麗な手、だけど私よりも大きくてきっと頼りになる手。
ちょっとした好奇心で少しだけ撫でてみたがやっぱり綺麗だ。
と、あまりにしつこいと流石に自分でも引くから潔く手を離した。

のだが。

離した手を今度はソニックの方が掴んできて、思わず驚いて肩からビクッとなってしまった。

「名前」

「は、はい」

名前を呼ばれたかと思うと今度は手を引かれた。誘うような動きに釣られるとあっという間にソニックの腕の中で。
……あ、待ってこれちょっと恥ずかしい。
声が裏返りながらもソニックの名を呼ぶが、相手はびくともしなかった。


「報酬は、これでいいな?」


望むものを用意できたのなら報酬は最高のものを用意しよう、という以前の言葉。
なるほどこう来るかぁ、なんて彼の腕に収まったまま、チラリと赤くなっている耳を見た。

…ああやっぱり、彼の事をちゃんと好きになれそうだな、とそこで私は改めて感じた。




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