ジェノス



これの続きなホワイトデーネタ

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バレンタインのチョコを渡して暫くの間は、渡せたことと、ホワイトデーに何か貰えるだろうかということでどきどきしていた。
だが実際その日が近付くと、テストやら何やら学校の色々で振り回されてそんなことを気にする余裕が無かった。
だから当日に友達からホワイトデーだとお菓子を貰うまで忘れていたことも仕方がないと思う。
そこでジェノスとサイタマさんにもあげたなと思い出したが、まぁ彼らもヒーローだし、ジェノスに至ってはあんなに貰っていたのだからわざわざ用意もしてないだろうと考えて当日に彼らの住まいに足を運ばなかった。
…渡したのは私の勝手だ。それに対してわざわざ「お返しください!」と彼らの家に突撃して恥をかくのも頂けない。
サイタマさんなら仮にそう言ったとしても、何だかんだでキャンディの一つや二つくらいはくれるかもしれないが、ジェノスはきっと「勝手に押し付けて来たくせに見返りを求めるのか、図々しい奴め」くらい言ってくる。いつものあの何考えてるのか分からない鉄仮面顔で。
そんな確信をしてしまえるのが少し寂しい。


そーんなこんなで、15日。テストも終わってあとは終業式さえ終われば春休み。短い休みだけどやっぱりわくわくしてしまう。
授業を受け、休み時間には友人と駄弁り。
やっと今日の授業が全て終わり、さて帰ろう!という時に事は起きた。


「ねぇねぇあれ!!校門の所に立ってるの、S級ヒーローのジェノスじゃない!?」


HRが終わり、早い子はもう帰って少し広くなった教室にそんな声が上がった。
まだ教室に残っていた子たちはその姿を確認しようと、男女関係なく窓の方へと移動する。
私も聞き覚えのありすぎる名前に反応して、後ろの方から外を覗いてみたが、確かにジェノスだった。
…チョコを渡してから暫くは恥ずかしくて、その後はばたばたしててなかなか会いに行けなかったが、やっぱり姿を見てしまうと胸が高鳴ってしまう。
やっぱり私はアイツが好きなんだと思い知らされる。

「うっわマジだジェノスだ!すっげー本物初めて見たよ!」

「え、何でいるの? もしかして周辺に怪人でも出た?」

「えーやだぁ、帰れないじゃん」

「でもそれにしては落ち着きすぎてるし違うんじゃね…?」

クラスの子の声をBGMに、私の目は校門の所に立つジェノスに釘付けだった。
帰っていく生徒、主に女子に声を掛けられてはキャーキャー言われている。
あ、ついに握手を要求された……………やっぱり応えちゃうよなぁ。
あーもうあっという間に人だかりが出来てしまってる。理由は何であれ、せっかくこんな所に来てるんだし会えるかなぁと思ったが、この様子じゃ無理そうだ。
少し痛んだ胸をそのままに、私は荷物を持って教室から出た。



「あーーー……」

ジェノスを中心に出来た人だかを横目に校門を出て、私は町中をふらりと歩いていた。
何であそこに居たのかとか、久し振りだねとか、話し掛けられなかった事に対する後悔が押し寄せる。
これがもしも昨日、ホワイトデーの日の出来事だったら「もしかして私に…?」みたいな少女漫画思考が出来たものだが、生憎今日はもう15日。…いや、仮に14日だったとしても、あれだけのチョコを貰っていたのだ。私なんてその……………この話はやめよう、鬱になるだけだ。

「……ゲーセン寄って帰ろうかな」

気晴らしにでもと目についたゲーセンの前で足を止めた。
でも春休みに友達と遊びに行く予定があるんだよな、ここで無駄遣いすると後々後悔しそう。でも何かで気を晴らしたい。でもでも。
堂々巡りになる気配を感じたから思考を切った。もういいや、家に帰って適当にテレビを見てれば晴れるでしょ。

「おい」

溜め息を吐き、再び足を進めようとすると後ろから声を掛けられた。
この系の声の掛け方は大体危ない奴だ。無視?気付かないフリでもする?
少し考えて、気付かないフリして行こうと思うと、今度は名前を呼ばれた。
私の知り合いだったか、と警戒を弱めて振り返る。

「……え、ジェノス…?」

ジェノスが居た。
いつもの仏頂面……にしては何だか怒ってるように見えて、これはこれで気付かないフリして帰った方が良かった気がした。
でも久し振りにジェノスに会えたことで、何とも私の心は素直にも心臓の鼓動を速める。

「え、え、ジェノス!? ど、どどどうしたの?校門のあの人だかりは!?」

動揺があからさまに声に出てしまった。
しかしコイツにとってその事はどうでも良かったらしく、

「やはり気付いていながら素通りしたか…」

ジェノスの怒りのオーラが強まった。
自分が失言してしまったのだと理解できたが、何故?とも思う。

「いや、えーと、何か用事かなぁ、だったら邪魔しちゃ悪いなぁ、なんて…?」

必死にそれっぽい言い訳を絞り出す。
私的には上手く理由を出せたと思ったのだが、ジェノスは納得出来なかったようで依然として顔が恐い。
…ふとそこで気付いたが、片手に何やら上質そうな紙袋を携えていた。あの人だかりの誰かに早速貰ったのか、やっぱりイケメンヒーロー様はすごいな。…………すごいな。

「お前、昨日は何をしていた?」

「昨日? …特別なことは別に何も…」

普通に学校に行って、普通に家に帰って。
強いて言うなら春休みまでのカウントダウンが減っていくことに喜んでいたくらいか。

「何もなかったのに来なかったのか?」

「……え、ごめん何の話!?」

何か約束してたかと焦る。約束なら忘れない自信はあったのだが、色々あってうっかり、という可能性がある。
やばい、それは怒られて当然だ、謝らなければならない。

「どうせ昨日も先生の家に来るのだろうと先生共々家から出ずに待っていたと言うのにお前は…!」

「ごめん、テストとかあってバタバタしてたから多分忘れてた! 何か約束してたっけごめん…」

ずっと待っていたということは、二人の一日の予定を潰してしまったということだ。
幸い、外で待っていたとかじゃなかったようだからまだマシだけど…あれ、ホントに何の約束してたんだっけ…?

「約束はしていないが」

「………ん?」

「約束はしていないが昨日はホワイトデーだろう、そんな事もお前はそのスカスカの頭から抜け落ちていたのか」

「…え、何なの人が素直に謝ってるのに何でそんな喧嘩腰なの」

コイツほんとに性格悪い!ほんとサイタマさん相手の時のあの素直さを少しくらい分けてほしい!
腹が立ってきたからもう帰ってしまおう。よく分かんないけど一応謝ったしこれ以上責められる道理はない。

「というか約束してないのに何で行かなかったことで怒られなきゃいけないのよ!」

「バレンタインとかでいきなり訪ねてきたんだから、その返しも受け取りに来ると思うだろう?」

「は? 何をそんな当然のように!私だって……、……?」


返しを受け取りに来ると思った…?


私が言葉を失いジェノスの方を見ると、相変わらず不満そうな顔をしたジェノスが手に下げていた紙袋を私の目の前に出してきた。
…これはもしかして校門の所で貰ったものじゃなく、持ってきたもの…?

「先生と、………………一応…、俺からだ。というのも先生がお返しすると言っていてそれにジェノスもどうだと誘われてしまっては先生のお誘いだから断れるはずもなく仕方なく用意しただけであって決して深い意味などは……おい、何だその顔は」


目の前に出された袋を受け取ったのはいいが、ちょっと信じられなくて呆けてしまっていた。
…だって、ジェノスが、あのジェノスがお返しを用意してくれてたなんて。
サイタマさんからのお返しというのも、期待していなかっただけに嬉しい。
嬉しくて、先程までのイライラが全部消し飛んで、喜びで心臓の鼓動がうるさい。

「……あ、ありがとう……あの数なのに律儀に返そうとするところ、今回だけは素直にすごいなって思うよ……今回だけはだけど……」

思いの外にやけてしまっている気がする。でも今だけはそれを制する余裕もない。
こりゃ馬鹿にされても仕方ないなぁ、なんて。



「………全員に返すと思っているのか、鈍感め…」



嬉しくて紙袋の中を覗き込んでいた私には、最後に呟いたジェノスの声に気付かなかった。




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