白磁に混ざる夢
承太郎と私がどういう関係なのか。私たち二人は口を揃えて幼なじみだと言うが、それだけではないことに周りが気づき始めていた。別に恋愛感情がある訳では無い。承太郎が車の中で私に寄りかかって眠ってしまった時、同い年とはいえ可愛い弟のように思えてしまった。けれど私は彼の頭を撫でていただけで、少女漫画にありがちなシュチュエーションとはいえときめいたりはしなかった。
同じ部屋になった時も同じである。中東の暑く乾いた気候に耐えられず私たちは薄着になっていた。改造された学ランと帽子を脱いでタンクトップ姿の彼と、セーラー服はそのままに体を締め付ける下着を取り払った私。お気に入りの黒いレースのそれは砂埃で汚れたカーペットの上に放ったままになっているが拾い上げる気力もない。体に溜まった疲労のせいでベッドにうつ伏せになっていると煙草を口にくわえた彼が横に座った。ベッドが揺れて傷んだ体を刺激する。
「ちょっと、もう少しゆっくり座ってよ。怪我したところが痛むじゃない」
「はしたないぜ。服ぐらい片付けたらどうだ」
「私だって片付けなきゃとは思っているけれど……暑いし、疲れたし、怪我が痛くて動けないの」
同じ部屋なのが典明くんやアヴドゥルだったら恥ずかしくてこんなことできないだろうし、ポルナレフだったら別の意味で危ないからそもそも下着を脱ぐことすらしないだろう。ぼんやりとそんなことを考えていると突然彼が背中に触れた。
「マジで付けてねえのか」
「何よ今更。小学校低学年の時なんか一緒にお風呂だって入ってたのよ。これぐらい恥ずかしくもなんともないわ」
先程までワイヤーに締め付けられていたところをさすられる。ブラを付けていないのは床を見れば一目瞭然であるが、彼は何に驚いているのだろう。
「鴇子、一緒に風呂、入るか」
「……寂しくなっちゃったの?ふふ、特別サービスよ。身体洗ってあげるわ」
暑さのせいで正常な判断能力を失っていたのかもしれない。だが、承太郎なら手は出してこないだろうという謎の安心感があった。シャワーとトイレだけの小さなバスルームに二人で入る。質素なシャワールームに敷かれた、承太郎の瞳よりも少し濃いブルーのタイルはひんやりと心地よい。ガラスの壁で仕切られたそこは思ったよりも狭くて身体が触れてしまう。
私は彼よりもかなり背が低いので、彼が肩からシャワーを浴びれば私は頭から水浸しになってしまう。そこに配慮したのか彼はシャワーヘッドを外して私の背中に湯をかけ始めた。
「湯加減はどうだ」
「ちょうどいいわ、私が先に髪を洗ってもいいかしら?」
固形石鹸がなかなか泡立たなくて苦労したが、無事に髪を洗い終え彼の方を向く。承太郎は腰にタオルを巻いているが、こうして見上げると彼がどれだけ成長したかがよく分かる。濡れた髪から零れた水滴が逞しく鍛え上げられた筋肉を伝って流れた。思わずなぞるように手を添える。
「どうした」
「小さい頃は私と背も変わらないくらいだったのに、いつの間にこんなに大きくなっちゃったのかしらね」
「それはお互い様だぜ。お前だって……」
承太郎の目線がだんだんと下に降りていくのが分かる。タオルが巻かれた体。その胸の中心に視線が注がれている。
「うふふ、中、見てみる?」
「ッ!?馬鹿野郎!」
腕を組むようにして胸を寄せると、彼は顔を真っ赤にしてシャワーから掬った水をかけてきた。きゃあきゃあとはしゃぎながらじゃれあっていれば幼少期の思い出が蘇る。どちらからか喧嘩が始まってバスタブで水の掛け合いが始まる。はしゃぐ声を聞いたホリィさんが様子を見に来るところまでがお決まりだった。お風呂上がりにフルーツ味の棒アイスもくれた。誰がイチゴ味を食べるかで喧嘩していたのが懐かしい。
「お風呂から出たら、ロビーにアイス買いに行こうか」
「ああ」
私の幼少期の楽しい思い出は全部承太郎とホリィさんがくれたものだ。絶対にこの旅を終わらせなければならないと再認識させられる。あと数十日、どんな刺客や困難が待ち受けているのだろうか。売店で買ったアイスを食べながらそんなことを考えていると、横に座った彼がアイスを持っていない方の私の手に触れた。彼は感情を表に出すことは少ないが思いやりのある優しい子なのだ。そっと私の手を握った彼が口にしていたのはイチゴ味の棒アイスだった。