サマーフレンド・ワンナイト
※キス描写しかないけどR15
「ね、承太郎ってさ、キス……したことある?」
ストローをくるくると回しながら彼女はそう言った。カランカランと氷の音が心地よい。俺はその言葉に思わず顔を上げた。顎に手を置いてこちらを見上げるその姿は先程の言葉も相まって酷く扇情的だった。
「いつも女の子にキャーキャー言われてるし、私の知らないところでキスの一つくらいしてるんじゃあないの?」
ピンク色の唇が言葉を乗せて動く。俺にはその動作がスローモーションになって見えた。
「正直に言え。本当は何が知りたいんだ?キスしたことがあるって言ったら怒るのか?」
「……もう、意地悪」
意地悪はどっちだ。いつも俺の想いに気づかないフリして心をかき乱す彼女と、それに振り回される俺とでは、明らかに彼女の方が性格が悪いだろう。だんだんと怒りが湧いてくる。鉛筆を乱暴に机に置いて煙草を手に取った。彼女に断りをいれることなく火をつける。
ひぐらしと風鈴の合唱が思考の裏で鳴っている。夏の夕日に照らされて挑発するように微笑む彼女は映画の登場人物さながらの美しさだった。一度しか見られない彼女の動作一つ一つを鑑賞するのように目に焼き付ける。
「キスしたことがあるなんて言われたら相手の女の子に嫉妬しちゃうかも。こんなにかっこいい男の子を虜にするなんて、さぞ綺麗な子なんでしょうね」
俺が虜になっているのは誰かなんて、彼女が知らないはずないのだ。彼女は全て知っていてこんな話を仕掛けてきている。腹の中でグツグツと煮えたぎる感情は今にも吹きこぼれてしまいそうだった。
その感情を意識した瞬間、咄嗟に動かずにはいられなくなり、彼女の腕を掴んで上半身を思いっきり引っ張った。ほとんど吸わずに煙草を灰皿に突っ込んだ。近づいた顔のその後ろに手を回して唇に食らいつけば、熱とともに柔らかい感触が伝わって頭が痺れるような感覚に陥る。体を乗り出しているせいで少し体勢が辛い。
「ふ、ふっ……」
静寂が訪れる。外で喚いている蝉が喧しい。遅れて彼女の口から呼吸音が漏れた。苦しそうに震えている。知るものか。もっと俺の怒りを、劣情を、思い知ればいい。
やがてキスは深くなり、彼女はいつの間にか俺の膝の上にいた。結局彼女も乗り気なのだろう。唇を合わせるだけのバードキスや、舌を絡ませる深いものまで、とにかく一生分とも言えるほどの接吻をした。思考を止めてひたすらに唇を貪っていれば、チリンと風鈴が風に揺れる。
「……っ、その」
「謝らないで」
一際大きく響いたその音に正気を取り戻した。噎せながら呼吸を整える彼女に罪悪感が湧いてくる。謝ろうと口を開いたところで今度は向こうから軽いキスをされた。
「私が他の人とキスしたって言ったら、嫉妬する?」
「そりゃあ、な」
「じゃあ私たち、もう両思いね」
あれからどのくらい経ったのか。もう日は沈み、頼れる明かりは月光だけだ。だが起き上がって電気をつける気力はなかった。布団を用意する余裕もなく、性急に畳の上で始めた行為は俺が数回出したところで終わった。好きな女を初めて抱いた日が満月だったというのは、なんだか縁起がいいような気がしなくもない。
ティッシュを乱雑に抜き取って身体を拭ってやった。普段はうるさい程に元気な彼女がぼうっと天井を眺めているのは新鮮だ。体の底から捻り出したような声を上げていた彼女は静かに呼吸音を漏らすだけ。その呼吸を聞いているとまた熱を抑えられなくなってしまいそうで、何十分も前に飲んでいた彼女の飲み物を慌てて手に取った。
手が水滴で濡れ、その雫が床に垂れるのも気にせずぐいとジュースを口に含む。吐息を漏らす愛しい唇にそれを流し込んだ。氷の溶けて薄くなっているはずのオレンジジュースは怖くなるほどに優しい味だった。