星を知らぬ子供





「パーパ?」
「ん?どうした鴇子よ……」

少しだけ扉を開けて姿を覗かせたのは美しいブロンドに琥珀色の瞳を持つ少女だった。まだ五歳だがDIOによく似て美しく、本を読むのが大好きで好奇心旺盛な女の子だ。寝間着の純白のワンピース姿で、うとうと眠そうに目を擦りながら、DIOの元へと歩いていった。

「あのね、怖い夢見ちゃって眠れないの。一緒に寝てもいい?」
「ふ、困った子だな。このDIOがいる限りお前が危険な目に遭うことは無いというのに」

DIOは起き上がり、鴇子を抱き上げて膝の上に座らせた。闇の帝王が愛しい娘を可愛がる姿というのは一般的な家庭の父親となんら変わりない。夜の間しか起きていられない父親のために彼女はいつも夜更かしをしてしまう。昼間わたしがこの館を訪れる時、鴇子はいつも寂しそうに本を読んでいた。本当はDIOともっと遊びたいのに、彼に神にも劣らぬ能力を与えた吸血鬼の力のせいで、どうしてもそれは叶わないのだ。悲しいことに、後天性である吸血鬼の因子は彼女には遺伝しなかった。

「嫌、やっぱり寝たくない……」
「それは聞けないお願いだな。明日だってテレンスに勉強を教えて貰うのだろう?」
「でも……」

DIOの胸に頭をぐりぐりと押し付けてそう言った。わたしは読みかけの本をベッドサイドに置いてその様子を眺めていた。人だとは思えないほど(一人はもう人間をやめてしまったが)美しい父娘が抱き合っている姿は、わたしを神話の絵画を鑑賞しているかのような気分にさせた。

「だって、パパとはお月さまが見えている間しか会えないんだもん。寝て起きた時にはいつもひとりぼっちだから」

DIOが珍しく困ったような表情をした。わたしは彼の生い立ちのことを思い出した。父親から愛を与えられなかったどころか、暴力を受けついには毒殺してしまったこと。父親を憎んで育った彼にとって、父親に会えないことを嘆く鴇子はどう見えているのだろうか。

自らの手で鴇子を育てることになった時のことだ。殺した女に自分と血の繋がった娘がいたことを知った時、DIOは既に付けられた名前を捨てさせて新しい名前を考えることにしたのだ。最初は面白半分で拾って来たのだろうが、だんだんと愛着が湧いてきたらしく、名付けにはかなり熱心だった。その相談相手になったのがわたしだ。

「神父に赤ん坊の名前を付けさせるというのは、よくある話だろう?」

その時初めて鴇子を抱き上げた。誰が見てもすぐに娘だと分かるほどにDIOにそっくりだった。違うところを挙げるとすれば、性別と世の穢れを知らない純新無垢な微笑みくらいだろう。曰く、鴇子の琥珀色の瞳は吸血鬼になる前の彼のものと同じ色だという。

そして五年の歳月が経過した。彼女は天使のように美しい少女へと成長した。闇に包まれた館に閉じこもっているのは勿体ないと思うほど、彼女には光が似合っている。

「ねぇ、リコ……アメリカに帰るのはずっと先だよね?明日の朝もこの家にいる?」
「ああ、もちろんだよ」

顔を上げ、愛称でわたしを呼ぶ鴇子の目元は腫れていた。よく見るとDIOの固く引き締まった胸筋に雫が垂れているのが分かる。寂しさを抑えられずに泣いてしまった小さな子供。DIOは彼女の背中を優しく撫でてやり、鴇子はそれに安心したのかすうすうと寝息を立て始めた。

「エンリコだから『リコ』なのか」
「かわいらしいだろう。幼い子供の考えることはユーモアがあってとても面白いよ」

DIOは完全に夢の世界に入ってしまった鴇子をわたしとの間に寝かせた。キングサイズの大きなベッドは三人が寝ても窮屈にならない。彼女の髪に触れるDIOの瞳は慈愛に満ち溢れている。鴇子の成長を、DIOと共に天国に到達するまでの人生を見届けるのがわたしの使命だと確信している。この館で父親が何をしているのかも、何故自分に母親がいないのかも、何も知らない少女はただ寝息を立てるのみだった。







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