傀儡師とペテン師




※仗助に彼女がいます

失敗した。もっと早く言えばよかった。
私は同じクラスの東方仗助くんに恋をしている。特徴的な髪型は、少し古くはあるものの、彼によく似合っている。誰にでも優しく元気な彼は女子に人気で、ラブレターなんかしょっちゅう貰っているそうだ。私もその女子の中の一人だった。放課後の教室から、校門を出ていく彼を見つめるのが私の日課だった。
私が告白の台詞を考え始めた日のこと。仗助くんが女の子と付き合い始めたらしい、なんてニュースを耳にした。周りの女の子達は慌てふためき、ついには仗助くんの彼女をいじめる人まで現れた。私はそれどころではなく、ただひたすら家で泣いて、仗助くんに関する話を聞かないように早足で学校を出るようになっていた。
ある日、委員会で遅くなってしまった私が昇降口に向かうと、私の下駄箱の傍で誰かが壁に寄りかかっていた。

「じょ、仗助くん……?」
「よっ、鴇子」

軽く片手を挙げた彼は、こちらに近寄ると、私の手を握って歩き始めた。慌てて彼を引き止める。

「仗助くん、なんで私の名前……そういえばあの女の子はどうしたの?彼女がいるんでしょう?」
「まあ、細かいことは気にすんなよ。特別な夢だと思って楽しんで……ジョウスケくんからのささやかなプレゼントだぜ」

仗助くんのようで仗助くんではないような彼との不思議な夢が始まった。仗助くんのことをあまり知らなくてもおかしな夢だということは分かる。平日の夕方、部活の無い子がみんな帰宅し、部活のある子たちが帰る前。私の下駄箱がある正門昇降口の左から二番目のロッカーが約束の場所だった。彼は私の左手を握り杜王町のあちこちに連れて行ってくれた。けれど人が多い所へは行かず、住宅街にある小さな個人経営の喫茶店や、杜王町から少し歩いたところにある神社のような静かなところへ行くことが多かった。

「鴇子、好きだぜ」
「うん、私もよ」

ベンチに座っている私たちは自然と距離が縮まり、が私の腰に手を回したために抱き合うような形になった。いつの間にか彼を仗助くんと呼ぶことは無くなった。学校で仗助くんとすれ違っても話しかけられないどころか見向きもされないのだ。私はなんとなく、夕日に照らされながら愛を囁く彼が『東方仗助』ではないことに気づいていた。

「ねぇ……本当のことを言って欲しいの。貴方、東方仗助じゃあないんでしょう?本物の東方仗助には彼女がいるし、私のことをまるで知らないもの」
「それで、鴇子はどうしたいんだ?俺が偽物の仗助だったとして、自分を騙して彼氏面した俺を見捨てるのか、本物の仗助に告げ口するのか……そんなことをしたからって別に責めたりはしないけどな」

余裕綽々な彼は私を抱いたままそう言って笑みを浮かべた。だが、私だって怒るつもりは無い。東方仗助のフリをしていたというのは悲しいけれど、彼とのデートや下校中のことを思い出すと心が暖かくなる。私を優しく包んでくれるような紳士的な言動や行動はきっと本物だろう。私は内面を知らない東方仗助よりも、内面を知っている彼を好きになってしまった。東方仗助もきっと良い人だろう。しかし、より身近な所にいる彼はもっと魅力的に見えた。

「私、貴方のことが好き。見た目が仗助くんだからとか、そういうのじゃないわ。優しくて明るい貴方が好き。私のことを気遣ってくれる貴方が好き。私のことを好きって言ってくれた貴方が好きよ」

そう言うと彼は驚いて目を見開いた。私が怒るとでも思っていたのだろう。今度は私の方から彼の大きな体に抱きついた。不思議なことに、彼の胸元は静まり返って心音一つ鳴っていないような気がした。だが彼が私の頭を撫でたせいでそんなことを気にする前に私の心臓がうるさくなってしまった。

「貴方の本当の名前、教えてくれる?」
「……サーフィス。なんで東方仗助の格好ができるのかは説明が難しくてよ……窓の外を眺める鴇子を見た時に一目惚れした。でも東方仗助が好きだって知ったから、お前のロッカーの傍で、仗助に化けて待っていたんだ」

サーフィスは一瞬気まずそうに目をそらしたが、抱きついたままの私を引き離すと、肩を掴んで再び目を合わせた。

「もう一度言う。お前のことが好きだ」
「……ええ、私もよ」

 






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