代わりの首輪






「私が子供っぽいから嫌いなんでしょ!いつも知らない女の人のところ行ってるの、私知ってるんだから!」

面倒なことになった。仕事から帰ってきた姿のまま部屋の隅で膝を抱えて泣きじゃくる彼女は、俺のお世話になってる人というか、なんというか……。関係性に名前を付けづらいが、とにかく、大事に思っている人だ。
十二の頃から一緒に住んでいるというのも不思議な話だが、とにかく俺たちはもう一線を越えてしまっていた。

「……別に、俺、あんたの彼氏じゃないんだけど」

その言葉を言った途端に、部屋の温度が氷点下まで下がったような気がした。今のは地雷だった。彼女は泣き止んだが、より強く膝に顔を押し込んでいた。

「知ってるよ。暖かいご飯が食べれて、お風呂に入れて、寝るところもあって、気持ちいいことが出来ればそれで十分なんでしょ」
「俺がいつそんなこと言ったの」
「見てれば分かるよ、そんなこと」

こういうのは得意じゃない。女の機嫌取りなんてやりたくもないが、彼女にずっと不機嫌でいられるのは困る。

「これは本当に、すれ違った女に付けられただけだ」
「うそだわ、そんなの、アカギくんなら簡単に避けられるはずだもの」
「一睡もしないで徹夜で麻雀してた人間にそれ言うかよ」
「……」

俺はそう言いながら首に手を当てた。雀荘の近くの繁華街は金曜の夜だったせいかかなり混んでいて、酒臭い大人たちで溢れていた。いつものように煙草を吹かしながら歩いていると、派手な格好をした見知らぬ女に突然抱きつかれたのだった。露出の多い服。どんな仕事をしているのかは何となく想像がつく。俺を客か愛人と間違えているようで、俺の体をいやらしい手つきで触っていた。
そいつを振り払って、麻雀での緊張感が途切れたせいかずしりと重くなった瞼を擦った。それに何も食べていない。そうなると、行く場所は一つしかない。

(俺にとってのオアシスのはずだったのに……)

合鍵で部屋に入ってきた俺を見るなり、彼女は突然取り乱して泣き始めたのだ。俺の首元に赤い虫刺されのようなものがあるらしい。鏡で確認したからそれは事実だ。

そして今に至る。彼女は俺の浮気――そもそも彼女とも付き合っていないが――を疑っているらしい。

「じゃあ、俺が誰かに取られないように印でも付けとけば」

何かに縛られて生きていくのは性にあわないが、誰かのものになるくらいなら別にいい。それに、その相手が彼女なら悪くないとも思える。

「ん」

蹲る彼女に近寄って俺は首元を晒した。彼女は顔を上げて、泣きすぎて赤くなってしまった顔のままぱちくりと瞬きをした。そしてその意味が分かったのか、さらに顔を火照らせた。こういうところが可愛いなあと思う。

「あの、私、やり方わかんない……」
「だと思った」

目をそらす彼女の体に手を添えて引き寄せる。柔軟剤の爽やかな香りの奥に汗の匂いを感じた。それを追いながら首筋に舌を這わせると、彼女は漏れそうになる声を必死に隠そうと口を手のひらで覆っていた。

「っ……」
「……こうだよ。分かった?」

こくりと頷いた。彼女の首筋にはくっきりと跡がついている。それを人差し指でなぞってやれば、彼女は体を震わせて目をとろんとさせた。

「あらら。これだけでそうなっちゃうんだ」

そう言って彼女を無理矢理抱き上げて、寝室へと向かった。

「ククク……俺は別に、『しよう』なんて一言も言ってないけどね。まあ、御要望とあらば」
「も、もう!意地悪しないでよ……!」

畳の上に敷かれた布団に彼女を下ろしてやる。ホテルなんかのベッドの方が柔らかいし広いかもしれないが、俺は布団の方が好きだ。狭い布団の方が閉じ込めてるというか、『自分のもの』って感じがするし、事後にピッタリ抱き合うあの感じが堪らない。狭い部屋の狭い布団で彼女を見下ろす。さっきまでの怒りはどこへやら。完全にヤル気満々らしい。

「付け方分かんなかったから……その、もっと、教えて欲しいです……」
「ふーん。どこがいい?」
「えっ」
「言ってごらん。じゃないとしてあげないよ」

優しい声で耳元で囁いた。助けを求めるようにこちらを見つめる瞳に嗜虐心が煽られる。

「どこでもいいの。いっぱいつけて、私をアカギくんのものにして」
「……よくできました」

制服のスカーフを解き胸元をはだけさせた。その白い肌に所有印をつけていく。

「いいね、俺のものって感じだ」

その真っ赤な顔を、潤んだ瞳を、恥ずかしそうに身動ぎする体を見れただけで充分だ。……なんて言えるほど、俺は優しくない。


「俺を煽ったこと、覚悟するんだな」








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