シュガートラップ






こんなに甘ったるいものは初めて食べた。
ギザギザの付いた色紙のうつわの中からパンのようなものが膨れ上がっている。どこかの店のショーケースの中にあった三角形のケーキとは形が違うが、これもケーキと言うらしい。その上にこれまた甘ったるいホイップが乗っかっていたり、苺や檸檬などの果物が入っていたり、チョコレートの味がしたり、かなり融通のきく料理なんだろう。

「しげるくん、おいしい?」
「……ん」

毎週ここに来る度に、俺は彼女の作るお菓子の味見をさせられていた。先週はレーズンやココナッツの入ったクッキー。その前はキャラメルと胡桃か何かの焼き菓子……これも名前があったはずだが、忘れてしまった。

「来週はフィナンシェにしようかな。それともキャトルカールかな、アマレッティでもいいな……」

馴染みのない横文字の羅列。どんなお菓子なのか想像もつかない。
カップケーキをかじりながら、壁の豪華な装飾を見る。それだけじゃない、扉やカーテンやさらには床にも、洋風の細かい装飾が施されている。
紗雪の両親が戦前に外国に住んでいたので外国の文化や歴史に詳しいらしい。この豪邸もヨーロッパで修行した有名な建築家が設計したそうだ。

「しげるくん、ほら、感想は?」
「ちょっと甘すぎるかな」

そう言うと紗雪は少し悲しそうな顔をして、だがすぐに俺の言ったことをメモし始めた。

「うーん、分量通りに入れたはずなんだけどな……単位の計算ミスったかな……」

もったいないので手に付いたクリームを舐めとる。おしぼり(これもたぶん、横文字の名前がある別物だろう)を使うほどではない。
真剣にレシピとにらめっこしている紗雪は同い年にしては少し幼く見える。ちょっとしたことで泣くし、どうでもいいことで笑う。落ち着きもないし、話の話題もメルヘンというか、馬鹿っぽい。

「やっぱり、好みの問題なのかなあ?」

いかにも生ぬるい環境で育った甘ったれた人間という感じだが、嫌いじゃない。ここにいる時は汚い大人と麻雀する時のように相手の裏を考えなくていいし、自分の素をさらけ出しても何も問題はない。

「紗雪、唇にクリーム付いてる」
「えっ、どこどこ?」

彼女はおしぼりで口元を拭った。立ち上がって、反対側に座る紗雪の傍に行く。

「ん、このくらいの甘さが好きかな」

あんたのその顔が見たかったんだ。
唇にクリームが付いてるなんて真っ赤な嘘。からかうための口実。唇があわさった途端、彼女は持っていたペンを地面に落とした。カップケーキの上に乗っていたさくらんぼのように頬を真っ赤にした紗雪は両手で顔を隠して俯いている。こういう単純なところが可愛くて好きだ。

「甘すぎ……甘すぎだよ、こんなの」
「ククク、あんたは甘いのが好きだろ?」
「……ばか」

砂糖の過剰摂取は体に悪い。喉が焼けるようなこの甘さは、きっと砂糖ではなく、恋のせいなのだろう。







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