誰が為の眠り
ニブルヘイム。
かつての思い出のふるさとは、今や火の海と化した。人々が泣き叫んでいる声が聞こえる。
「あ……か、母さん……」
給水所の辺りに避難してきた人の中に、ソルジャーの俺に温かい言葉をかけてくれた母さんの姿は無い。しかし俺の家は轟々と燃え上がっている。
そうか、きっと母さんはもう……。
頭の中では分かっていた。でもどこかでこの状況を客観視している自分がいた。まるで物語を見ているような疎外感。思い出の中の人々は、誰も俺を見ていない?
そんな時、頭にふと一人の笑顔がよぎった。
『クラウドくん、一緒にあそぼ?』
村の外れにすむ少女。俺がミッドガルに出てすぐ、父親が亡くなって今は母と二人暮らしをしているんだっけ。火の手はあそこまで届いていないはずだ。まだ、無事かもしれない。
俺は駆け出した。子供の頃からあるトラックや、ティファとイリアが見送ってくれた橋を越えて、村の裏側へと向かう。童話の中の姫が住むような花に囲まれた家は、村の騒ぎに気づいていないみたいに静かだった。
「だ、だれか!助けて!」
「イリア!」
静けさをかき消すように響いた悲鳴。それは紛れもなくイリアのものだ。慌てて玄関に向かうと、鍵の部分が切り落とされ強引に部屋に入られた後があった。
「クラウド!」
「イリア!無事だったのか……!」
胸に飛び込んできたレティシアを抱きしめると、いつもの花の香りに混じって血の生々しい臭いがする。泣いたまま俺の名前を呼ぶ彼女の背を撫でながら奥を見ると、床に女性が倒れているのが見えた。彼女の母親だ。
「お母さんが、お母さんが……!」
「大丈夫だ、俺がいる」
「銀髪の男が入ってきて私たちを刺したのよ。そう……あれはまるで、神羅の英雄……!」
やはりセフィロスが来ている。早く村に戻って彼を探さないと、もっと大変なことになる。それに、ティファだって……。
そういえば彼女、今なんて言った?
「私、たち……?」
「……」
俺を抱きしめる手が弱くなったかと思えば、イリアは床に崩れ落ちてしまった。急いでしゃがんで彼女の体を触ると、お腹に大きく裂かれた後があった。手が彼女の赤で塗れる。
「うそ、うそだ!イリア、しっかりしてくれ……頼むから……!」
「クラウド、ごめんね。わたし……」
もう、だめかもしれない。
俺の目から溢れた涙が、彼女の白い頬を濡らした。彼女をゆっくりと床に寝かせる。
「クラウド、クラウド。わたしね、あなたのことだいすきよ。小さいころからずっと」
「うん、うん、俺もだよ……!」
声がどんどん小さくなっていく。彼女を繋ぎ止めておきたくて、繋いだ手を自分の頬に当てた。ぬるくなった体温が伝わる。
「だからね、クラウドにはわたしが見られなかった景色をたくさん見て欲しいの。それで、貴方が色んなことを経験して、たくさんのお友達ができたら……いつか、わたしを迎えにきてね」
「もちろん。だから、ちゃんと俺のことを見ていてくれ。俺のことを、待っていてくれ」
そう言うと、絶対だと言って彼女がか弱く笑った。その笑みを最後に彼女は永遠の眠りについた。どんどんと冷えるイリアを信じたくなくて、2階の部屋に運んだ。そこにはまだ、幼いころに一緒に遊んだドールハウスやソルジャーごっこに使った剣なんかが置かれている。
「おやすみなさい、おひめさま」
童話と違って、キスで目覚めることはない。そう分かっていたけれど、俺はベッドに横になるイリアに口付けた。胸に手を置いているその姿は、本当に眠っている姫のようだった。扉を開けて部屋を出る。英雄に、セフィロスに復讐しなければならない。俺とイリアがまた、再会できるように。