日陰の英雄





「…セフィロス?」

トレーニングの後、気晴らしに夜空でも見に行こうかと庭に向かった私。そこにいたのは美しい銀色を靡かせる剣士、セフィロスだった。

「貴方も、気晴らしに来たんですか?」
「ああ。たまにはこうして静かに星を眺めるのも良い」

セフィロスは振り返らずに言った。彼は普段から喧騒を嫌う節があるので、私が声をかけたのも迷惑だったのではないか。そう思い立ち去ろうとすると、急に彼がこちらを向いた。

「ここの奴らは…全てを受け入れるんだな」
「まぁ、そうですね。私も彼らを怖いとは思いませんよ」

彼ら、というのはファイター達のことだ。勿論、人間の姿をしていない仲間も存在する。初めに見た時は私も少し驚いたけれど、この世界に常識なんて通用しないのだ。直ぐに慣れて、偏見も無くなった。

「お前は、自分の運命を嫌ったことはあるのか?」
「…どうでしょう、よく分かりません。運命には逆らえませんからね。受け入れるしか無いものだと思っていましたから」

彼の表情はどこか暗いように見える。彼がどんな境遇に置かれてきたかは知らないけれど、そう質問してくるとは何かしら嫌な思い出でもあるんだろう。

「ふっ…確かにそうだな」
「…何かあったんですか?」

暗い表情をしていたと思いきや、彼は突然笑って言った。不安定な今の彼に、干渉するのは危険な事だと分かっている。それでも惹きつけられるのが彼の魅力だ。

「私は一度記憶を捨てた。だが…ここにいるとその無いはずの不要な記憶が私を悩ませるのだ。過去の忌々しい思い出さえも取り戻したくなる」
「運命に逆らいたい、ということ?」

纏っている雰囲気が違う。彼の宝石のような翠の瞳は揺れて、どこか憂いに沈んでいるようだった。
記憶を捨てる前のセフィロスの話だろうか。昔は強くて尊敬できる英雄だったとクラウドから聞いたことがある。

「以前の私の記憶はただの不必要なものだと思い込んでいた。いざ思い出そうとすると…母がそれを拒むのだ」

母。
その言葉を口にした途端、彼は悔しそうに笑った。彼の見た目や口調からは想像出来ないが、相当母親という存在に縋っているのだろう。

「無理に思い出す必要もないと思いますよ」
「何?」
「もう一度、作ればいいんですよ。私には分かりますよ、貴方が本当は優しいこと。思い出なんて……私がいくらでも作ります」

正直、戦闘中の彼の殺気は並大抵のものでは無い。まるで蛇に睨まれるよう。何度も戦場に立ってきた私でさえ、動けなくなるほどだった。優しいクラウドがあんなに人を嫌うなんて、一体セフィロスはどんな酷いことをしたのだろうか。
でも、時々彼は弱みを見せる。その冷たい翠の瞳は常に揺らいでいる。まるで愛に飢えた子供のようだった。

「ふっ……私は何を言ってるんだろうな」
「……?」

彼は苦笑したあと、セフィロスと話すために見上げるようにしていた私の頭を優しく撫でた。そして私に背を向けると、そのままファイターが暮らす館の方へ歩いていった。

「いつでもここに来てください、私でよければ、話し相手になりますよ」

彼の去り際に一言、そう告げると、セフィロスは一度だけ立ち止まって行ってしまった。
先程撫でられた頭はまだ熱を持っている。冷たい夜風が私の体の熱を奪っているはずなのに、何故か体が熱くてたまらない。

風邪をひいて彼にからかわれたのはまた別の話。







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