2018GW:2

目が覚めると見慣れない天井があった。ぼうっとする頭で、今日が合宿二日目だということを思い出す。身体をゆっくりと起こして、ぜんざいをどこで調達しようか考えた。

「おはようございます」

とりあえず何事も朝食から。そう思って食堂へ向かうと、派手なジャージを着た人達が既にひとつの机に集まっていた。

「あ、みょうじさん丁度ええとこに」

話し合いの中心にいるのは白石、小石川、渡邊先生の三人。……違った、渡邉先生と呼んだらニヤニヤしてきたからやめたんだった。とにかく、彼らは予定表とにらめっこしながら今日のことを相談していたらしい。午前は筋トレなどをして各々自由に過ごし、その間オサムちゃんと私が昼食の買い出しへ行く。写真撮影は午後から頼めないか、という話だった。

「昼食の買い出し、ですか」
「せや、みんなで楽しい思い出作ろうや」
「絶対、絶っっっ対BBQがしたい!浜辺やし!」

忍足が噛みつく勢いで訴えている。この合宿所から歩いて十分ほど先に、夏場は海水浴客でいっぱいになるビーチがあった。

「お前らどうせ肉ばっかり食うんやろ、却下や却下」
「肉食べへんかったら何食べたらええん!?」
「そんなん決まっとるやろ」

ごくり、と生唾を飲み込む音がした。忍足だけではない、あの石田までもがオサムちゃんを注視している。

「……流しそうめんや!」

溜めた割にインパクトのない発言に、深いため息がいくつも重なった。それが想定内だったのか、オサムちゃんは落ち着いた様子でチューリップハットを被り直す。

「ここで流しそうめんにして予算抑えておくと、最終日にええことあるかもしれんで」

ええこと、という言葉に多少盛り上がる外野と、早く買い出しに行ってぜんざいを探したい私。焦りは禁物だとわかっていても、この絶好のチャンスを前にしてソワソワしないほうが難しい。

「……ほなみょうじさん、オサムちゃんがいらんもん買いそうになってたら止めたってな」

白石がうまくこの場をまとめてくれて、心のなかでよくやったと拍手を送った。私が同行している間、小石川がかわりに撮影してくれるとのことでカメラを託す。テニス部と別行動になることは残念だけど、これは私の名誉に関わることだ。私もそのいらんもんを買おうとしている一人だということを隠して、澄ました顔で答えた。

「わかった、まかせて」

小さな車に乗り込めば、十五分ほどでスーパーに到着した。オサムちゃんがネギを探している間にめんつゆを探すふりをして、スイーツコーナーに直行する。ぜんざいを見つけると、さりげなくカートに入れた。

「んんー?なんやそれ、そんなもんいりません!白石に怒られるやんか、俺が」
「あ、ああー!いる、いるやつなんです、賄賂なので!」
「ははは、意味わからんでぇ」

あっけなく見つかったぜんざいは、即座に棚に戻されてしまった。手首を掴まれ、そのままひっぱられる。自腹で買いますという悲痛な訴えもむなしく、結局賄賂を手に入れられないまま再び車に乗り込むこととなった。



買い出しに行っていた間に、みんなはどこからか調達した竹で流し台を作りあげていた。ところどころ隙間があって、しょっちゅう途中でひっかかってしまうから、なかなか後ろのほうまでそうめんが流れてこない。その上テニス部員たちがものすごく器用に麺をさらっていくから、なんとも疲れる昼食となった。

「さっ、お腹も満たされたことやし。鬼ごっこでもするか!」
「えっ、先生待ってください!海に入らないんですか!?」
「みょうじ実はアホなん?海開きはまだまだ先やろ」

ちっ、と心の中で舌打ちをする。せっかく水着ショットが撮れると期待したのにと思っていたら、背の高いもじゃもじゃ頭の千歳が私の肩に手を置いた。

「せっかくだけん、みょうじさんも参加すったい」
「へ?嫌や、私この面子でやりたくな、」
「えっ、姉ちゃんもやるん!?やったー!」
「……うん、あはは」

遠山が無邪気にそうはしゃぐから、やりたくないという言葉を泣く泣く飲み込んだ。食べた直後に運動はいかがなものか、と思いながらそれを言えずに走る。最初は遠慮がちだったテニス部員達も、ついには容赦なく私を狙うようになっていた。砂に足をとられて思うように走れないなか、財前のもとへ必死に走る。やる気が全くなかったようで、おとなしく捕まってくれた。

「はぁ、はぁ、ちょっと、財前に話があんねんけど」
「なんすか」
「はぁ。……ぜんざい、買えんかってんけど」
「ほーん、別にええんちゃいます?」

良かった、ばらす気はなくなったんだ。そう思っていたのに、財前はにやりと笑っている。

「……どうしたん?」
「すぐわかりますわ」

財前はそれだけ言うと、荷物番をするオサムちゃんのほうへゆっくりと歩いていった。とん、と肩を叩かれてきょとんとしている彼は、自分が鬼になったことを理解すると、あっけなく鬼ごっこの終了を呼び掛ける。

「鬼ごっこ、しゅーりょー!みんな出てこいやー!」

ごそごそと集まりだすみんなへ、今からは自由時間だと話している。そういえば、とカメラを取りに行こうとすると、私よりも早く一氏がカメラを手にする。何を撮るのだろうとしばらく観察していると、グラビアポーズをする金色を一氏が撮影していた。

「ユウくぅん、綺麗に撮ってなぁー!」
「みょうじこの小春のデータ全部くれや、もちろんそのあとちゃーんと消しとけよ。昨日のんも!」
「……は?」
「き・の・う・の・も!」

昨日の?昨日昨日きのう、と記憶を辿ってみる。お腹がチラリズムしている所を撮ったSDカードはちゃんと抜いたはず、と思ってよくよく考えてみると、そういえばその後も色んなセクシーを撮っていたことを思い出した。

「……あ!」
「ごめん!みょうじさんが買い出しでおらん間、俺ら中身見てもーてん」

すまなさそうに謝る小石川は悪くない、悪くないけど睨まずにはいられなかった。忍足はその横で思い出したようにはっと表情を曇らせている。

「そういやみょうじさんってそういう目で俺らのこと見てたんやんな……」
「え、もしかして忍足めっちゃ引いてる!?やだ、違うねん待って待って!」
「みょうじさん、俺は別にええと思うで。むしろどんどんエクスタシーに撮って?」
「白石はポージングが完璧すぎてむしろ引く」

身の危険を感じる、とかなんとか言ってガードを固くする人もいれば、写真を撮ってくれと積極的になる人もいる。その後もからかわれたりからかったりするうちに日が暮れて、夜にはすっかりみんなと打ち解けることができた。


back / next