2018GW:3

朝ごはんを食べているとおもむろにオサムちゃんが話し始めた。それに対して近くに座っていた忍足と金ちゃんが反応した。私を含め他のメンバーは食事を続けながら耳を傾ける。

「もう三日目か〜特になにもおきへんくて良かったな」

「部活とやってること変わらんし大怪我とかせーへんやろ」

「いや、そうちゃうねん」

「どういうことなん?」

あんな実はな、と語り始めたオサムちゃん。
ここ、海があって反対側には山があって空気が綺麗やろ?まあコンビニとかは都会みたいな距離にはないけど、その分静かやしこういう田舎はいくらでもある。環境的にも値段的にも結構良い条件やのに別荘もない。
でな、校長に聞いたんやけど、この宿舎は元々校長の祖父の物やねんて。別荘として買ったけど老後はここに住むつもりで、連休さえあればメンテ兼ねて泊りに来てたらしい。
ある晩に美しい人が道を尋ねてきた。夜更けに女性一人で何をしているんだろうと思ったがそれは一瞬のことで、あまりの美しさに下心がでてしまい大きな通りまで案内することにした。自分が案内しているはずなのに女性についていっている状態だということに気が付くのは早かった。でも頭ではわかっているのに体が言うことを聞かない。止まりたいのに一歩一歩と進んでしまう。気が付いたら崖の上にいた。もう一歩踏み出せば下は海だ。横にいたはずの女性が見えない。嫌な汗がじわりと出る。すると後から声が聞こえた。

「案内してほしいのは、あの世なの」

「んぎいいいいいいい!!!!!!!!!!」

ずっと震えてた金ちゃんが耐え切れなくなって叫んだ。その叫び声に私たちはビックリした。

「うおおおお!なんか出たかと思った!」

「金ちゃんやめてや!」

忍足と小石川みたいに声を発することができずにいるのが千歳と私。一氏は守ったるからなって言いながら小春ちゃんに抱き着いている。あれは絶対に自分が怖いからだ。小春ちゃんは怖い〜と言いながら銀さんに抱き着いていて、こっちは絶対に怖がっていない。財前は良いネタですねと言いながらどこか楽しそうだ。白石は無なのでつまらないと思っているのかこわいからなのかわからなかった。

「ま、そんなわけやから綺麗な人には気をつけるんやで」

「いや、それ、先生が一番あぶないんじゃ……」

素直に思ったことを口にすればみんな笑い、こわい気持ちが少し軽くなったとお礼を言われた。その噂を確かめたいと言い出す財前。忍足は止めようとしてもしかして怖いのかとおちょくられ勢いで賛成とか言い出した。小春ちゃんはイケメンと暗闇〜と喜んで参加希望する。銀さんと白石は泣きだした金ちゃんをなぐさめるのに必死。私と千歳はやっぱり怖くて喋らない。小石川はどうしようってキョドキョドしていた。最年少が泣いてるしそんな危険なことしないだろう、そう思っていたので私は怖いながらにも冷静だった。なのに。

「そう言うと思ってコース作っといたで〜」

「なんやて」

「ゴールに塩飴置いとくから食べながら帰ってくる遊び」

「それ清めようとしてるならやめとこうよ」

私の訴えもむなしく、練習みっちりして晩御飯を食べたら休憩して肝試ししてお風呂入って就寝の流れやで〜とサラっと日程を発表された。
肝試し嫌だな、そればかり頭にあったせいか気が付けば晩御飯を食べ終えていた。昼間はどう過ごして今食べたばかりの晩御飯のメニューが何か思い出せない。こんなに消化に悪い食事は初めてだ。でも不思議なことに自分より怯えている人がいると落ち着いてくる。金ちゃんありがとうそしてごめんね、震えすぎじゃないかな。
先生が距離短いし一人ずつ出発しろと言ったせいなんだろうけど、あまりの怯えように金ちゃんだけ先生と脅かし役をやることになった、ずるい。

順番が発表される。銀さん、忍足、千歳、小春ちゃん、私、財前、小石川、一氏、白石。最初も最後も嫌だったので真ん中らへんでラッキーだなと思った。
コースは宿の横、木が生い茂る中を海の方向へ進み、崖の数メートル手前の塩飴を取って帰る、というもの。
一人二人と出発しだす。小春ちゃんの平然ぶりに、そうだ後ろから脅かそうと思いついてニヤける顔を抑える。自分の番がきて小春ちゃんに追いつくために少し早歩きで進む。途中ガサガサという音が聞こえて足を止めた。先生か金ちゃんだと思い構えるが現れない、キョロキョロと見渡すものの姿が見えない。風だったのかな、と思いまた歩き始めると後ろから声が聞こえた。

「すみません……」

それは女の高い声だった。この合宿で女は私一人しかいない。ということは、この女は、先生が言っていた……。

「すみません……」

もう一度聞こえた声、そして肩にグっとつかまれ一気に恐怖に襲われた。

「きゃああああああ!!!!!!!!」

手を振りほどくようにダッシュすると後ろから「ええもん撮れた」と聞き覚えのある笑い声がしたような気がした。それでも確認する余裕なんてなくて、ひたすら走るとようやく小春ちゃんの後ろ姿が見えた。

「こはるちゃんんんんん!!!」

こわかったよー、と抱き着こう両手を広げて近づく。私に気が付いた小春ちゃんが振り返った。

「なあに?呼んだ?」

「んひっ!!!!!!」

でも振り返った小春ちゃんの顔は真っ白だった。

「のっぺら……ほんまにでたあああああああ!!!!!」

戻れば謎の女、進もうにものっぺらぼう。どうにもできなくて腰をぬかしたまま泣き出すとのっぺらぼうがしゃがみこんだ。

「失礼しちゃうわ〜パックしてただけやないの」

「パック……こ、小春ちゃん?ほんもの?」

「せやで〜」

「なんでパック……」

「潮風でお肌荒れちゃうし、この時間がお肌ケアに良いって聞いたんよ」

寝るときにしてよ〜と言いながらも安心した。でも思い出す、後ろに女の人がいることを。それを小春ちゃんに話すと「今後ろにおるのが犯人やない?」と言った。怖かったけど一人じゃない安心感から振り返ると財前がいた。

「財前、きみ、女やったん……」

「あほっすね、んなわけないやろ」

スマホ画面を近づけてきたので見ると『恐怖台詞集』というタイトルの再生画面が出ていた。あ、なんだ、そういうこと。なんなのこの子。もしかしてぜんざい買えなかった仕返しかなと思うと文句は言えなかった。



そのまま三人で進んでいくと忍足と千歳の姿が見えた。千歳が怖さのあまり小走りで進んだら忍足と出会って二人で歩いていたらしい。じゃあみんなで行こう、と話していると銀さんの後ろ姿が見えてきた。ここで銀さんも仲間に加わり、みんなでわいわい話しながらゴールまで行くと飴が置かれていた。一つずつ取って戻ろうとすると後ろから女の人の声が聞こえた。

「わたしにも、ちょうだい」

後ろは崖しかない。でも財前が後ろにいたな、と文句を言うために振り返った。

「もーしつこいでそれ、やめてや」

「いや、俺、てかポケットに入れてるし」

「え?ほな、今のって」

「見える!見えたらいけんもんが見えるばい!!!」

「いや〜ん!銀さんアタイを守って〜!」

銀さんの腕をとる小春ちゃん、すでに走り出した忍足、変な顔をしている財前、硬直している千歳。

「え、なになになに?!」

行くで、の掛け声で走り出した銀さんと小春ちゃん。わかりたくないという自己防衛フィルターのせいでもたついてしまう私と、動けずにいる千歳を、財前がひっぱった。

「あんたら先輩やろ、立場が逆やで!」

「うおおおお財前このままひっぱってええええ」

「俺んこつもひっぱってええええええ」

自力で動けないと叫ぶ私たちを財前は最後まで連れて走ってくれた。






「お疲れ〜!みんなでお風呂入ろかー」

「お風呂〜やっとゆっくりできる〜」

「って待ったあ!みょうじ!こっち男湯!」

「一人で入るんこわいねん、お願い!」

「いや無理やから、ほら、塩飴とコケシあげるから」

「やめて動き出しそうでこわい」


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