みんなのデータをメモしながら部誌を書いたり簡単に掃除をしているとあっという間に帰宅時間になっていた。
「俺は銀さんと金ちゃんとでネット片づけてブラシもしとくわ」
とりあえずネットから片付けようとしていたところ、声をかけてくれたのは小石川で「お願いします」と見送り私はボール拾いへ移った。
中腰になって拾うのは結構疲れるもので、うーんと背伸びをしながらコートを見渡した。あとどのくらい残っているか確認したかたったのだが、拾う前より半分くらい減っていた。
「私、もうこんなに拾ったんか……まるでスピ」
「スピードスターやで〜!」
今まさに言おうとしていた台詞を本人が叫んでいる、しかもこちらに向かいながら。
近くまできたかと思えば「ほら、見て!」とカゴいっぱいに入ったボールを見せてきた。
「めっちゃ拾ってる」
「向こうはもうないで」
ぱちぱちと小さく拍手をしていると、苦笑した白石もやって来た。
「走りながら拾うから、謙也が巻き散らかした隕石に見えてきた」
その台詞に状況が簡単にイメージできて笑ってしまう。
「白石!……って、みょうじにうけてるから許したる」
「それはおおきに、残りもスピードスターが頑張ってや」
「しゃーないな!」
俺は残りの部誌書いて提出するわ、とベンチで書き出した。
謙也のすぐ終わるからの言葉に甘えて、掃除を終わらせるために部室へ戻る。だが掃除は終わりかけていた。
「こうやってると小春と結婚したみたいや!」
「それプロポーズなん?きゃっ!」
夫婦ごっこをしながら楽しく過ごしていたらしい。残りの拭き掃除だけ一緒にやっているとそれぞれの仕事が終わったみんなが戻ってきた。
「みょうじ大丈夫か〜」「いつもありがとうな」「お疲れ」と一人一人声をかけてくれた。
でもね、よく考えたら私全然仕事してないんだよな、みんながしてくれたから。
申し訳なくなって「ごめんね」「助かりました」「ありがとう」と返した。
「みんなお疲れ〜今日は先に帰るね」
いつもなら一緒に買い食いコースだが、見たい特番があるので直帰だ。理由を言うとどうせ録画してるんやろと連れて行かれる。過去に何度かあった。私はリアルタイムで見たいのに。そんなわけで言うやいなやそそくさと部室を後にした。
地元に着くと家路へ急ぐ。ふと気がついた。一定のリズムを崩さない足音。はじめは道なりが同じだけだと思った。それにしてもこんなにペースが合うものなのか。忘れていた視線のことも頭によぎり体がぞくっと震えた。一度気になると止まらないもので、ふりきるように走って帰った。家につくとすばやく玄関を開けて後ろを確認することもなく閉めた。誰にでも経験のある勘違いだと思う、私が特別つけられているわけじゃない。心を落ち着かせようとお風呂へ向かった。
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