マネージャーを始める前も今も、テニスやみんなに興味がなかった。関わることはまずない、会話をはずませるなんてもってのほかだと思っていた。だからこそ任命されたのだろうと。
だけどどうだ。歓迎会を開かれ、一緒に話をしたり帰ったり遊んだり。すっかり仲良くなってしまった。仕事はちゃんとこなしているつもりだし、なんだかんだ楽しくやってるし、やる気もできてたと思う。しかし、このままで良いのか、と疑問をもつようになった。
「ふんふん、それで?」
私が一息つくと続きを促される。ここまで一気に話したのに更に話せって?!
「いやーこのまま続けてて良いのかなって」
「なんでよ、ちゃんとやってるんでしょ?」
『辞めたい』ではなく『続けて良いのか』という聞き方にちよは驚いていた。決め手は歓迎会だという単純なキッカケの話はしないでおこう。
「そうだけどさ、最近ファンの目も痛いっていうのもあるし」
「女の嫉妬は怖いからね」
実は最近女子からの目線が痛いのと、ひそひそ何か言われているのを自覚している。直接何かをされたことがないからそのままにしているが、さすがに傷つく。でもそこに後ろめたさを感じるのは自分のせいだというのもわかっている。
彼らと仲良くなるためにやっているわけではない。かといって彼らのためにサポートをしようとしているわけでもない。ただの仕事としての流れ作業になっている、という自覚がある。それに何よりも、あんなに悪態ついてたのに今は普通に仲良いもんな。ファンが怖いっていうのは半分本当だけど、もう半分は言い訳。みんなのために動いているわけじゃないから、このままマネージャーやることに罪悪感がある。
「それは気持ちの問題だからね」
「そうですよね、わかってはいるんだけどさ……」
「ルール勉強しなおしたり、みんなの役にたとうって自分なりに努力はしてるんでしょ?」
「そうなんだけどさ〜」
昼休みはなんとなく相談になってしまい、思っていることをポツポツと話した。まとまりもなく思い出しながらまごまごと話す私に、ちゃんと聞いて上辺ではなくキチンとした意見をくれる。自分の問題、だから誰もどうしようもない。自分以外はどうにもできないことだ。
放課後はなんとなく、足取り重く部室へ向かった。
「なまえ、話があるんだ」
扉を開くと、普段なら怖いと思う幸村の笑顔がどこか心配そうな雰囲気をだしていた。
「なに?」
「そろそろ大会が始まるからね、練習を強化内容に変えるんだ」
「大会?テニスの?」
他に何の大会をこの部活で行うんだ、と呆れた顔をされる。いや、そういう意味で聞いたわけじゃない。
「俺も帰ってきたことだし無敗で優勝するよ」
ニヤリと強気な彼は楽しそうだ。
「それで?私にどうしろと?」
「どうって、ボールの減りや部員の無茶も増えるから、いつも以上に目を配って走り回ることになると思うから忠告までに、ね?」
もちろん文句を言わせない、という言葉が隠れている気がするのは私だけか。
「じゃあさ、マネージャー増やさない?今でもいっぱいいっぱいだよ。気配りする余裕なんてないもん」
「それは無理な話だな」
はじめから疑問だった、なぜ人員を増やそうとしないのか。私以外にも、あんたらに興味ない人いっぱいいるでしょ!と叫びたい。そんなことが顔にでていたのだと思う。私、嘘つけないからな。
「俺達に興味ない、それってやる気もないんだよ」
「私もそうじゃん」
「なまえは単純なわりに責任感あるから」
「ちょっと待て、なんかひどくね?」
「ほめてるんだよ」
全くほめられている気がしない。
責任感はともかく単純って!いや単純ですけれども!否定できないからよけいにひどく感じるんだよ!
「それに今更人入れても教えるのに時間がかかるし、よけい足手まといなんだよね」
サラリとひどいこと言ってのけるな。
「私には短期間でつめこんだじゃん」
「意外と記憶力や要領良いもんね」
だからさっきからひどいって!
「知ってるんだ」
「へ?なにが?」
「なまえが宿題も予習までもしてること、観察力が良くて気がまわること、感情的なこと、単純で扱いやすいこと。だからマネージャーはなまえが良いって思ったんだよ」
「なに、それ………」
今度は誉めつつ貶されているので反応に困る。
「ま、なまえにしかできないって思ってるんだからよろしく頼むよ」
そんな風に言われたら……頑張るしかないでしょ!!!!
「わかったよ、やれば良いんでしょ!」
ほら、みんなもいつまで着替えてるの!さっさと練習はじめるよ!!!
私は上がる口角を必死に結び怒ったふりをして部室を出た。
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