試作六日目
「おーいみょうじ」
「あれブン太じゃん。今日はガム持ってないよー」
「まじかよ」
ってそうじゃなくて!
「なあ、誰にあげんの?何作るの?試作してんならくれよ味見してやるよ」
会うなり質問攻めそして上から目線。
本当甘いもの好きだよねー。味見は女同士でしているから、いらないといえばいらない。でもきっと舌がこえているだろう彼に試食してもらえば、もっと美味しく作れるだろうか。
「タイミング合えば試食してもらっても良いよ」
「あわせるあわせる!」
すごい食い付きの彼に少し笑ってしまう。
「ちゃんと感想ちょうだいね」
「おう!楽しみにしてるぜい!」
ご機嫌で部活へ向かう彼を見て、今年もいっぱいもらえるだろうに待ちきれないのかと思うと、犬に見えてきた。ブン太にあげたらすごい喜んで美味しいって食べてくれるんだろうな。
試作七日目
もはや誰にあげるとか関係なく、みんなでわいわいとお菓子作りをするのが楽しくなってきた。みんなもどんどん上手になるし美味しいし、デコレーションとかラッピングとか考えるのが楽しい。
でも気がついてしまった。
みんなはあげる相手がいて、その人を想いながら考えて作っているのだ。
私はまだ誰に渡すか決まっていない。それに気がついた今、目の前にある可愛らしくラッピングされたケーキが、行き場を失ったように見えて可愛そうになった。
私は一人になりたくてみんなとは時間をずらして帰ることにした。
「みょうじ、今帰りか?」
「うん、ジャッカルはみんなと帰らないの?」
校庭を通っている時、ふいに声をかけられた。
私は周りを見渡すがテニス部のメンツは見当たらない。
「みんなはまだ部室、俺は用があって先に帰るんだ」
「そっかー部活お疲れさま」
ジャッカルとは同じクラスだからたまに話をする。内容は覚えてないくらいどうでもいいことだ。
「みょうじは今日も試作か?」
「そうなの」
「……誰にあげるんだ?」
「どうしよう、あげるのやめようかな」
これが他の人になら言わなかった。ジャッカルには不思議な事に本音を隠さずに言える。
「なんでだよ、こんなに頑張ってるのに」
「今私の気持ちが宙ぶらりんでさ、もうやめようかなって思ってる」
「宙ぶらりんでもなんでも、少しでもあげたいって思うなら良いんじゃねーの?気持ちなんて後からついてきたりするしよ」
このジャッカルの言葉に、なんでか私は心うたれて何も言えなかった。そんな私を見て、偉そうな事言って悪かったなと帰って行った。
気持ちが後からでも良いのか。
少しでもあげたいと思えるならあげても良いのか。
そうだよね、周りが本気モードだからその気になってたけど義理であげても良いんだよね。そっか、そう思うとスッキリした。やっぱりジャッカルはジャッカルだなー。話して良かった。
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